棚の金具を外そうとしたら、ドライバーがネジの上で空回りするだけ。屋外に置いていた金物のボルトが、サビで少しも動かない。ネジが回らない場面は力不足に見えますが、実際には原因がいくつかに分かれていて、原因ごとに効く手段が違います。
結論から言うと、まず「なめ(カムアウト)」「サビ・固着」「ネジかじり」「回す向きの勘違い(左ねじ)」のどれに当てはまるかを見分け、その原因に合った順番で手を打つのが近道です。いきなり体重をかけて力任せに回すと、ネジ頭の溝が潰れてしまい、外すのがさらに難しくなりがちです。
この記事では、ベッセル・エンジニア・呉工業・パナソニック・マキタ・OSGといったメーカー公式の資料をもとに、原因の見分け方、ドライバーの当て方、浸透潤滑剤と衝撃の使い方、インパクトドライバーで緩める段取り、なめたネジの外し方までを、仕組みから順に解説します。
・ネジが回らない4つの原因と、その見分け方
・ドライバーは「押す力7、回す力3」で当てるとなめにくい理由
・サビで固着したネジを「浸透させて、叩いて、回す」手順
・インパクトドライバーで緩めるときと、なめたネジを外すときの注意点
ネジが回らない原因は4つに分けると対処が決まる

ドライバーが浮いて空回りするなら「なめ」を疑う
ドライバーを回すと刃先がネジの溝から浮き上がり、カリカリと空回りするなら、原因は「なめ」、つまりネジ頭の十字溝が崩れかけている状態です。ネジそのものは固くないのに、力がネジに伝わっていません。
なぜ浮き上がるのか。プラスドライバーの刃先は先にいくほど細くなる形をしています。ベッセルの公式解説では「プラスドライバーの刃先がテーパー(傾斜)になっているため、押す力と回す力のバランスが悪いと、刃先がネジから抜け出す「カムアウト」が発生し、ネジがなめてしまいます。」と説明されています。斜面の上で回す力をかけると、刃先は斜面を登って外へ逃げようとするわけです。
家具の組み立てでよくあるのが、細いドライバーを大きなネジに当てて回し、溝の角を削ってしまうケースです。一度角が丸くなると、正しいサイズのドライバーに替えても引っかかりが弱くなります。空回りの手ごたえを感じたら、それ以上回し続けず、いったん手を止めてサイズと当て方を見直すのが被害を広げないコツです。
赤茶色の粉や白い粉が出ているなら「サビ・固着」
ネジ頭のまわりに赤茶色のサビが浮いていたり、ドライバーはしっかり噛んでいるのに、ネジがまったく動かなかったりする場合は、サビや汚れでネジ山同士が固まった「固着」が疑われます。屋外の金具、水まわりの近く、長く締めっぱなしだった部分で起こりやすい状態です。
固着は、ネジ山とめねじ(受け側のねじ)のすき間にサビが入り込み、接着剤のように動きを止めている状態です。このとき必要なのは「回す力を増やすこと」ではなく、「すき間に潤滑剤を入れて、固まった部分を崩すこと」です。呉工業の公式解説も、潤滑剤を吹き付けて浸透させ、小さな衝撃を与える流れで案内しています(詳しくは後半の手順で解説します)。
やりがちなのは、固着したネジに力だけをかけて頭の溝をなめさせてしまうことです。固着となめが重なると対処の難度が一段上がります。サビが見えたら、力をかける前に潤滑と衝撃の段取りに切り替えましょう。
途中で急に重くなって止まったなら「ネジかじり」
締めている途中や緩めている途中で、急にネジが重くなり、そこから進みも戻りもしなくなった。特にステンレスのボルトで起きやすいこの現象は「ネジかじり」と呼ばれます。
パナソニックの電動工具の技術コラムでは、かじりの原因として摩擦熱・熱膨張・切粉・回転数の上げすぎ・素材を挙げ、「金属の表面が擦れることで摩擦熱が生じると、ネジが膨張しネジ山が密着してしまうとネジ山溶着につながるため」と説明しています。ネジ山同士が擦れて熱を持ち、膨らんで、すき間がなくなってしまうわけです。
同じコラムでは、ステンレス鋼は摩擦係数が大きく、熱伝導率が小さく、熱膨張率が大きい素材だとされています。熱がこもりやすく膨らみやすいので、かじりが起きやすい理屈です。かじりは固着と見た目が似ていますが、「さっきまで回っていたのに急に止まった」という経過が見分ける手がかりになります。
どちらに回しても重いなら「回す向き」を疑う
見落としやすいのが、回す向きそのものの勘違いです。ふつうのネジ(右ねじ)は反時計回りで緩みますが、世の中には逆に回すと緩む「左ねじ」が使われている箇所があります。左ねじを反時計回りに回しても、締める方向に力をかけているだけなので、どれだけ力を入れても緩みません。
OSGの技術資料によると、左ねじは使用中のゆるみを防ぐために、回転する機器の締付部などで使われています。回転の向きによって右ねじが自然に緩んでしまう場所では、あえて逆向きのねじにすることで、使っているうちに締まる方向へ力が働くようにしているのです。
「強く回したら締まっていく感触がある」「回転する部品の軸端のナットやボルト」といった場面では、力を足す前に左ねじの可能性を確かめてください。逆向きに力をかけ続けるとネジや工具を傷め、手元がすべってケガにつながるおそれもあります。
| 原因 | 起きていること | 見分ける手がかり | まず試すこと |
|---|---|---|---|
| なめ(カムアウト) | テーパー状の刃先が溝から抜け出す(ベッセル) | 刃先が浮いて空回りする | サイズを合わせ、押す力を増やす |
| サビ・固着 | サビや汚れでネジ山が固まる(呉工業) | サビが見え、刃先は噛むのに動かない | 浸透潤滑剤+小さな衝撃 |
| ネジかじり | 摩擦熱でネジ山が密着する(パナソニック) | 途中で急に重くなり止まる。ステンレスで起きやすい | 力任せをやめ、外せない場合は相談も検討 |
| 左ねじ | 緩む向きが逆(OSG) | 回転する機器の締付部などで使われる | 時計回りで緩むか確かめる |
力を入れる前に確かめたい3つのこと
回している向きは本当に「緩める側」か
最初に確かめたいのは、意外にも回す向きです。右ねじは、ネジの頭を正面から見て反時計回りに回すと緩みます。当たり前に思えますが、天井や机の裏など、ネジを下から見上げる・裏側から見る姿勢になると、時計回りと反時計回りの感覚が逆転しやすくなります。
理由は単純で、「時計回り」はネジ頭を正面から見たときの向きだからです。ネジの反対側から見ていると、同じ回転でも逆に見えます。机の裏にもぐり込んで作業しているとき、「左に回しているつもり」でも、ネジから見ると締める向きになっていることがあります。
確かめ方は、ネジ頭の正面に目線を合わせ、「頭を見て反時計回り」と口に出してから回すことです。インパクトドライバーなど電動工具の場合は、逆転側にレバーが入っているかを目で確認してから引金を引きます(電動工具での手順は後半で解説します)。
左ねじが使われている場所ではないか
次に、そのネジが左ねじではないかを考えます。OSGの技術資料には、左ねじについて「使用中に締り勝手にねじが働くようにするためである。」と説明されており、例として両頭グラインダーの左側砥石の締付けねじが挙げられています。回転する部品が、回るたびにネジを緩める方向へ引っぱってしまう場所では、逆向きのねじにして締まる方向へ働かせているのです。
同じ資料では、左ねじにはLHと表記し、右ねじには一般に付記しない、という表記の考え方も示されています。製品の取扱説明書や部品の図にLHの文字があれば、左ねじの手がかりになります。
DIYで出会いやすいのは、回転する工具の刃や砥石の固定部です。「右に回して緩まない」と感じたら、力を足す前にその機器の取扱説明書で回す向きを確認してください。取扱説明書に交換手順が載っている場合は、その手順どおりに進めるのが安全です。
右ねじ=時計回りで締まり、反時計回りで緩むふつうのねじ。
左ねじ(逆ねじ)=右ねじと逆で、反時計回りで進み、時計回りで緩むねじ。表記はLH(OSG技術資料)。
カムアウト=テーパー状の刃先がネジの溝から抜け出す現象。ネジがなめる原因になる(ベッセル公式)。

ドライバーのサイズはネジに合っているか
三つ目はドライバーのサイズです。ベッセルの公式解説では「ネジの頭部の内側に刃先が収まるサイズを選びましょう。」とされています。刃先が溝の奥まで入り、すき間なく収まっていることが条件です。
サイズが小さいと、刃先と溝の接触面積が減って、力が溝の角に集中します。角が削れやすくなり、カムアウトも起きやすくなります。逆に大きすぎると、刃先が溝の奥まで入らず、浅い部分だけで回すことになり、やはり浮き上がりやすくなります。
同じ解説では、多少サイズが違っていても回せてしまうことがある、と注意されています。回せてしまうので気づきにくいのが落とし穴です。手持ちのドライバーを何本か当て比べ、刃先が一番深く、ガタつきなく入るものを選びましょう。
ネジ頭の溝はまだ残っているか
最後に、ネジ頭の状態を観察します。十字溝の角がまだはっきり立っているか、すでに丸くなってすり鉢状になっているかで、取るべき手段が変わるからです。
溝がしっかり残っていれば、サイズ合わせと当て方の見直しだけで回ることが少なくありません。角が少し崩れている程度なら、押す力の比率を上げて慎重に回す方法が使えます。溝がほとんど残っていない場合は、ドライバーで回し続けるほど状態が悪化するため、ネジ頭そのものをつかむ工具など、別の手段に切り替える段階です。
サビが出ている場合は、まず頭まわりのサビや汚れを落としてから観察すると、溝の状態がよく見えます。汚れが溝に詰まっていると、刃先が奥まで入らず、サイズが合っていても浮き上がる原因になります。観察の時間は短くても、その後の失敗を減らす投資になります。
ドライバーの当て方で、回るかどうかが変わる

押す力7、回す力3が基本とされる理由
ドライバーの使い方で一番効くのが、力の配分です。ベッセルの公式解説には「ドライバーは、押す力:7、回す力:3で締め付けるのが基本とされています。」とあります。回すことよりも、ネジに押し付けることに力の大半を使うという考え方です。
理由は、先ほどのカムアウトの仕組みにあります。テーパー状の刃先に回す力をかけると、刃先には溝から押し出される力が生まれます。この押し出す力を打ち消すのが、上から押し付ける力です。押す力が足りないと、回す力をかけた分だけ刃先が浮き、溝の角を削りながら抜けてしまいます。
ネジが固いと、つい手首だけでひねる回し方になりがちです。そうではなく、ドライバーの柄の後ろに手のひらを当て、腕全体でネジに向かって押しながら、回すのは添えるくらいの意識にします。ベッセルの解説は締め付けについての記述ですが、緩めるときもカムアウトの仕組みは同じなので、押し付けを先に作ってから回すと、なめにくくなります。
実は、ネジが回らないときに最初に増やすべきなのは「回す力」ではなく「押す力」です。回す力を増やすほど刃先は溝から押し出されやすくなるため、押し付けが足りないまま力を足すと、なめる方向へ進んでしまいます。サイズを合わせ、押す力7、回す力3の配分を作ってから回しましょう。
ドライバーはネジの軸とまっすぐに当てる
押す力を有効にするには、ドライバーの軸をネジの軸と一直線にそろえる必要があります。斜めに当てると、押した力の一部が横へ逃げ、溝の片側だけに刃先が当たるからです。
斜めに当たった状態では、刃先が溝の一方の壁にしか触れていません。そこへ回す力をかけると、接触している一点に力が集中し、その部分から溝が崩れていきます。押す力も真下に向かわないため、カムアウトを抑える効果が弱くなります。
やりがちなのは、狭い場所や高い場所で、腕を伸ばしきった無理な姿勢のまま回してしまうことです。姿勢が苦しいと、ドライバーは自然と傾きます。足場を整える、作業する物の向きを変えるなど、ネジの真正面に体を持ってこられる位置を先に作りましょう。横から見て軸がまっすぐかを一度目で確かめるだけでも、失敗は減ります。
ドライバーの番手はネジの軸径から確かめる
見た目だけでサイズを選ぶのが不安なときは、ネジの太さから目安を確かめる方法があります。ベッセルの公式解説では、ネジの軸径をノギスや物差しで測り、JIS B 1111を参照した表で目安のドライバーサイズを確認する方法が紹介されています。
プラスドライバーの刃先サイズは、ネジの太さに対応して決まっています。軸が太いネジほど十字溝も大きくなるため、太さを測れば、どの番手の刃先が溝に収まるかの見当がつくわけです。対応表はベッセルの公式ページで確認できます。
ただし、回らないネジは頭が埋まっていて軸径を測れないことも多いものです。その場合は、手持ちのドライバーを当て比べ、刃先が溝の奥まで入ってガタつかないものを選ぶのが現実的です。外せた後は、そのネジの軸径を測って番手を確かめておくと、次に同じ種類のネジを扱うときに迷いません。
柄の太さと持ち方で押す力は変わる
押す力をしっかりかけるには、持ち方も関係します。柄を指先だけでつまむように持つと、押し付けにも回転にも力が乗りません。柄の後端を手のひらで包み、ネジに向かって体重を乗せられる握り方にします。
押す力7、回す力3の配分を実現するには、押す方向に腕と体の力を使える姿勢が必要です。ネジが目線より下にあれば上から体重を乗せやすく、目線より上や横向きにあると押し付けが難しくなります。作業物を動かせるなら、ネジが下を向く位置に置き直すだけで押しやすくなります。
手が汗ですべるときは、乾いた布でグリップと手を拭いてから作業します。ベッセルの解説でも、サイズ違いのまま回すと手元がすべってケガにつながることがあると注意されています。軍手をはめるかどうかは作業内容で判断し、すべりやすいと感じたら、無理をせずいったん手を止めることを優先しましょう。
状況:家具を分解しようと、手元にあった細めのプラスドライバーで固いネジを回し続けたところ、溝の角が丸くなって正しいサイズでも引っかからなくなった。
原因:刃先が溝より小さく、接触面が少ないうえに、回す力ばかりかけてカムアウトが起きた。ベッセル公式も、多少サイズが違っても回せてしまうがネジをなめることがあると注意しています。
対策:刃先が溝の内側に収まるサイズに替え、押す力を先に作ってから回す。空回りを一度感じたら回し続けない。
サビで固まったネジは「浸透させて、叩いて、回す」
潤滑剤はネジ頭と「すき間」に吹き付ける
サビで固着したネジには、浸透潤滑剤を使うのが第一歩です。呉工業の公式解説では、固着したボルトの外し方として「防錆潤滑剤をネジやボルトの頭部分と隙間にしっかり吹き付けます」と案内されています。
ポイントは「すき間」です。固着しているのはネジの頭ではなく、ネジ山とめねじが噛み合っている内部です。潤滑剤は、頭のまわりのすき間から内部へしみ込んで、サビとネジ山の間に入り込みます。頭の表面だけを濡らしても、肝心のネジ山まで届かなければ効果は出にくくなります。
やりがちなのは、ネジ頭の真上から一瞬だけ吹き付けて終わりにすることです。頭とその下の材料が接する境目、ナットがある場合はナットとボルトの境目など、すき間になっている部分を狙って吹き付けましょう。周囲に飛び散ると困る場所では、布で養生してから作業します。
吹き付けたら、すぐ回さずに時間を置く
吹き付けた直後に回したくなりますが、呉工業の公式解説では「防錆潤滑剤を全体に吹き付けた後はしばらく時間を置き、内容液をしっかりと浸透させましょう」とされています。
浸透潤滑剤は、細いすき間に少しずつ入り込んでいく性質を利用しています。ネジ山の奥までは、吹き付けた瞬間には届いていません。時間を置くことで、液がサビの層とネジ山の間まで回り込み、固着をゆるめる下地ができます。
焦って吹き付けた直後に力いっぱい回すと、まだ固着が残っている状態で力をかけることになり、ネジ頭をなめさせる原因になります。吹き付けたら、その間にドライバーのサイズ確認やブラシの準備など、次の段取りを進めておくと時間を有効に使えます。どれくらい置くかは製品の案内に従い、一度で動かなければ吹き付けと待ちをもう一度繰り返すのも手です。
ブラシで頭まわりのサビと汚れを落とす
潤滑剤を浸透させたら、ネジ頭まわりの掃除です。呉工業の公式解説では、ワイヤーブラシや真鍮ブラシでネジ頭まわりのサビや汚れを取り除く手順が案内されています。
この掃除には二つの意味があります。一つは、溝に詰まったサビや汚れを取り除いて、ドライバーの刃先が溝の奥まで入るようにすること。もう一つは、頭のまわりのサビの壁を崩して、潤滑剤がさらに入り込める道を作ることです。溝にサビが詰まったままだと、サイズの合ったドライバーでも刃先が浅くしか入らず、カムアウトしやすくなります。
ブラシを強くこすりすぎて、まわりの塗装面や木部を傷つけてしまう失敗もあります。鉄のワイヤーブラシは削る力が強いので、周囲を傷めたくない場所では真鍮ブラシを選ぶなど、場所に合わせて使い分けましょう。掃除の後は、溝の形がはっきり見えるかどうかを確認し、なめの度合いを判断する材料にします。
小さな衝撃で固着を割り、回すのは最後
掃除が済んだら、衝撃を与えます。呉工業の公式解説では、工具で軽く叩くなどして衝撃を与える手順が紹介され、「コツコツと小さな衝撃を与えることで、サビや固着部分がわずかに割れて動きやすくなります」と説明されています。
固着したサビは、ネジ山とめねじの間で硬い層になっています。そこに小さな衝撃を繰り返し加えると、層にひびが入り、潤滑剤がさらに入り込めるようになります。強く一発叩くのではなく、「コツコツ」と軽く何度も、がポイントです。
やりがちなのは、強く叩きすぎてネジ頭を変形させてしまうことです。頭が潰れると溝も崩れ、ドライバーがかからなくなります。それでも外れない場合について、呉工業の公式解説ではより強力なケミカルや専用工具を検討するよう案内されています。また、呉工業の公式FAQでは、5-56について「劣化や変色の恐れがあるため、金属以外のものへはお使いにならないでください。」と注意されています。樹脂部品の近くでは、吹き付け範囲に気をつけてください。
叩けるドライバーで衝撃と回転を同時に伝える
衝撃が効くのは、固着を割りながら押し付けられるから
サビで固着したネジに衝撃が効く理由は、前の章の呉工業の解説どおり、小さな衝撃で固着部分にひびが入って動きやすくなるからです。これをドライバーの上から行えば、もう一つの効果が加わります。叩いた瞬間、刃先がネジの溝へ強く押し込まれることです。
押す力7、回す力3の考え方を思い出してください。カムアウトを防ぐには押す力が必要でした。ドライバーの後ろをハンマーで叩くと、手で押すよりも強い押し付けが一瞬だけ生まれ、刃先が溝の奥まで食い込みます。その直後に回せば、刃先が浮きにくい状態で回す力を伝えられます。
ただし、叩く前提で作られていないドライバーをハンマーで叩くのはおすすめできません。柄が樹脂だけでできているものは、叩く力を受け止める構造になっていないからです。叩く作業をするなら、メーカーがハンマーで叩けると明記している製品を選びましょう。
貫通ドライバーは軸が柄の後ろまで通っている
ハンマーで叩けるドライバーの代表が、軸が柄の後端まで通っている「貫通ドライバー」です。ベッセルの安全貫通ドライバー No.250は、公式サイトで「ハンマーで叩ける大型ナット」を備えた製品として紹介されています。
叩いた衝撃は、柄の後端の金属部分から軸を通って刃先まで伝わります。柄の樹脂部分だけで衝撃を受けると割れや変形のおそれがありますが、金属の通り道があれば、力が刃先へ素直に届きます。ベッセルの公式情報では、この製品は電気を通さないセラミックボールを内装し、刃先にはブラックポイント加工が施されているとされています。
この記事は特定の型番をすすめるものではありません。選ぶときは、ネジのサイズに合う刃先か、メーカーがハンマーで叩けると案内しているか、という二点を製品の公式情報で確認するのが基準になります。
| 種類・方式 | 安全貫通ドライバー No.250(+2×100)。ハンマーで叩ける大型ナットつき |
| 主な仕様 | 本体全長200mm、軸長100mm、軸径6.4mm、柄径41mm、刃先サイズ(+)2 |
| 構造の特徴 | 電気を通さないセラミックボール内装、刃先はブラックポイント加工 |
| 使い方のコツ・注意 | 刃先がネジ頭の内側に収まるサイズか確かめてから使う。叩くのは軽く、軸をネジとまっすぐにそろえる |
叩くときはネジとまっすぐ、軽く数回
貫通ドライバーを叩くときは、刃先をネジの溝の奥までしっかり差し込み、軸をネジの軸と一直線にそろえてから叩きます。斜めのまま叩くと、衝撃が溝の片側に集中して、溝の壁を欠けさせてしまいます。
強さは、呉工業の解説にある「コツコツと小さな衝撃」が目安です。強く一発で叩くと、ネジ頭が変形したり、ネジが留まっている材料のほうを傷めたりします。木材にネジ留めしている場合、強い衝撃でネジのまわりの木が割れることもあります。軽く数回叩いてから、押し付けたまま反時計回りに回してみる、を繰り返すのが基本です。
叩く間にドライバーを支える手は、柄をしっかり握り、ハンマーの軌道から指を外しておきます。作業物がぐらつくと衝撃が逃げるうえに危険なので、しっかり固定してから叩きましょう。
叩く作業が向かない場面もある
衝撃は便利ですが、どこでも使えるわけではありません。ネジが留まっている相手が、薄い板や樹脂の部品、ガラスや陶器を含む物の場合、叩いた衝撃でネジではなく相手側が割れたり欠けたりするおそれがあります。
衝撃が固着を割るのと同じ理屈で、もろい材料にもひびが入ります。浸透潤滑剤についても、呉工業の公式FAQは5-56を金属以外のものへは使わないよう注意しています。樹脂部品が近い場面では、潤滑剤も衝撃も使いにくいことを前提に、手順を組み立てる必要があります。
家電や機器の内部のネジ、電気配線にかかわる部分は、外すこと自体を慎重に考えてください。電気工事にあたる作業は資格が要るため、DIYで手を出す範囲ではありません。製品の分解については取扱説明書の記載を確認し、記載がなければメーカーの案内を確認するのが安全です。
インパクトドライバーで緩めるときの段取り
逆転はレバーで切り替える
手回しで動かないネジを、インパクトドライバーの打撃で緩めるという方法もあります。インパクトドライバーは、回転方向に打撃を加えながら回す仕組みのため、固いネジに回転方向の衝撃を繰り返し与えられます。
緩めるには、まず逆転に切り替えます。マキタの充電式インパクトドライバ モデルTD110Dの取扱説明書では、「正逆転切り替えレバーの A 側を押すと右回転(正転)し、B 側を押すと 左回転(逆転)します。」と説明されています。レバーの位置や表示は機種によって異なるため、お手持ちの工具の取扱説明書で確認してください。
よくある失敗は、締める作業の後にレバーを正転のまま残し、緩めるつもりで引金を引いてネジをさらに締め込んでしまうことです。打撃で締め込むと、手回しのとき以上に固くなります。引金を引く前に、レバーが逆転側に入っているかを目で確かめる習慣をつけましょう。
切り替えは止まってから、使わないときは中間へ
同じ取扱説明書では、「正転・逆転の切り替えは、モータの回転が停止した状態で行ってください。」と注意されています。回転中に向きを変えようとしないことが前提です。
また、使用しないときは正逆転切り替えレバーを中間の位置にしておくよう案内されています。中間の位置では引金が引けないため、持ち運びや置いたときに誤って回り出すのを防げます。正転と逆転を何度も切り替える緩め作業では、一回ずつ止まってから切り替える、手を離すときは中間に戻す、という流れを守ると安全です。
緩め作業は、正転で少し動かして固着を割り、逆転で緩める、というように向きを行き来したくなる場面があります。そのときも、毎回モータが止まったことを確認してからレバーを操作します。焦って回転中に触ると、工具を傷めたり、手元が振られたりする原因になります。
ビットはネジに合ったものを使う
インパクトドライバーでも、ネジとビットの組み合わせが合っていなければカムアウトは起きます。マキタの取扱説明書では「ネジに合った純正ビットをご使用ください。」と案内されています。
インパクトドライバーの打撃は、手回しよりもはるかに強い力をネジ頭へ一気に伝えます。ビットのサイズが合っていないと、その強い力が溝の一部に集中し、手回し以上の速さで溝を崩します。しかも電動工具は回転が速いため、空回りを感じた瞬間にはもう溝が削れていることがあります。
電動工具でも、押す力の考え方は手回しと同じです。ビットをネジの溝の奥まで差し込み、本体をネジの軸とまっすぐにそろえ、ネジに向かってしっかり押し付けた状態で引金を引きます。少し引いて動かなければ無理に続けず、潤滑と衝撃の段取りに戻るほうが、なめるリスクを抑えられます。
回転を上げすぎないのは、かじりを防ぐため
電動工具で注意したいのが回転数です。パナソニックの技術コラムでは、「締付速度(回転数)が過度に高いと、ねじ山同士の摩擦が急激に増加し、摩擦熱が発生しやすくなります」と説明されています。
摩擦熱はネジかじりの原因の一つでした。ネジ山が熱を持って膨張すると、おねじとめねじのすき間がなくなり、ネジ山が密着してしまいます。ステンレスのネジは熱がこもりやすく膨らみやすい素材なので、高い回転数で一気に締めたり緩めたりすると、かじりが起きやすくなります。
同じコラムでは、かじり対策として回転数の管理やソフトスタート機能の活用が挙げられています。引金を少しずつ引いてゆっくり回し始め、ネジが動き出したら回転を上げすぎないことが基本です。緩み始めたら、残りは手回しで外すと、ネジの状態を手で感じ取れて安心です。
なめたネジ・かじったネジはどう外す?
溝が少し崩れた「軽症」は、押す力をさらに増やす
ネジ頭の溝が少し崩れかけている段階なら、まだドライバー系の工具で外せる可能性があります。なめたネジを外す工具を出しているエンジニアの公式ページでは、軽症の場合の対応として「●ネジに押し付けながら、ゆっくり反時計方向に回します。●押す力:8、回す力:2を意識します。」と案内されています。
ベッセルが締め付けの基本として示した押す力7、回す力3より、さらに押す側に寄せた配分です。溝が崩れている分、刃先が引っかかる面が少なくなっているため、押し付けを強めて浮き上がりを抑える必要があるわけです。「ゆっくり」と書かれているのも、勢いよく回すと残った溝の角を一気に削ってしまうからです。
このときも、ドライバーのサイズを合わせ、ネジの軸とまっすぐにそろえるという基本は変わりません。溝に詰まった削りかすやサビを先に落とし、刃先が一番深く入る状態を作ってから回しましょう。

溝がほぼ残っていない「重症」は、ビットを打ち込む
溝の形がほとんど残っていない重症の場合、エンジニアの公式ページでは、専用のビットを使う方法が案内されています。手順は「●ビットをネジに当てて、ハンマーで打ち込みます。●グリップを装着し、軽症対応と同様ネジに押し付けながら、ゆっくり反時計方向に回します。」というものです。
溝が崩れたネジでは、ふつうのドライバーの刃先は引っかかる場所がありません。そこで、ハンマーで打ち込んでビットをネジ頭に食い込ませ、新たな引っかかりを作ってから回す、という考え方です。打ち込んだ後に回すときも、押す力8、回す力2の意識は軽症と同じです。
この方法は、ハンマーの衝撃をネジに加える作業なので、前の章で触れたとおり、ネジが留まっている相手がもろい材料の場合は割れや欠けのおそれがあります。使う前に、ネジまわりの材料が叩いても大丈夫か、作業物がしっかり固定されているかを確認しましょう。具体的な使い方は、使う製品の公式の説明に従ってください。
頭が出ているネジは、頭をつかんで回す
ネジ頭が材料の表面から出ている場合は、頭の外側をつかんで回すという手段もあります。エンジニアのネジザウルスGT(品番PZ-58)は、公式の製品ページで「潰れたネジ、錆びたネジを先端のタテ溝で掴んで回せます。」と紹介されているペンチです。公式情報では、対応するネジ頭径はφ3〜9.5mm(品番PZ-58)とされています。
溝がなくなっても、頭の外周が残っていれば力を伝える場所はあります。先端のタテ溝が頭の外周に食い込むことで、ふつうのペンチよりすべりにくく、回す力を伝えられる仕組みです。溝の状態に左右されないため、ドライバーで手の打ちようがなくなったネジでも手段が残ります。
注意点は、頭が材料に埋まっている皿ネジなどでは、つかむ部分がないことです。また、対応するネジ頭径の範囲外ではうまくつかめません。頭の径と出ている高さを先に確かめ、製品の公式情報で対応範囲を確認してから選びましょう。
ステンレスのかじりは、予防が一番の対策
ネジかじりは、一度起きると外すのが難しい現象です。だからこそ予防が大切になります。パナソニックの技術コラムでは、かじり対策として潤滑剤の塗布、かじり防止の表面処理をしたネジ、慎重な締め付け、回転数の管理、ソフトスタート機能の活用が挙げられています。
さらに同じコラムでは「切粉が付着したままネジを締めることで、ネジかじりが発生します」とされています。ネジ穴に削りかすが残っていると、それがネジ山の間に挟まって摩擦を増やし、熱とかじりの引き金になります。下穴をあけた後やネジ穴をさらった後は、穴の中のかすを取り除いてからネジを入れることが予防になります。
かじってしまったネジに力をかけ続けると、ネジが折れたり、めねじ側が傷んだりするおそれがあります。動かなくなったら無理をせず、作業を止めて状況を確認しましょう。大切な物や交換が難しい部品であれば、その製品のメーカーへ相談するのも選択肢です。
状況:屋外用にステンレスのボルトとナットを選び、電動工具の高い回転数で一気に締めたところ、途中で急に止まって、締めることも緩めることもできなくなった。
原因:パナソニックの技術コラムによると、回転数が過度に高いとねじ山同士の摩擦が急に増えて摩擦熱が出やすく、ステンレスは熱がこもりやすく膨張しやすい素材です。ネジ穴に切粉が残っていた場合も、かじりの原因になります。
対策:ネジ穴のかすを取ってから締める。回転数を上げすぎず、ソフトスタートなどでゆっくり回し始める。潤滑剤の塗布やかじり防止の表面処理ネジも対策として挙げられています。

まとめ:ネジが回らないときは原因を見分けてから手を打つ
次にネジが回らなくなったら、力を足す前に、手を止めてネジ頭を正面からよく見てください。溝の状態、サビの有無、回す向きを確かめ、手持ちのドライバーを当て比べて刃先が一番深く入る一本を選ぶところから始めれば、なめさせずに外せる可能性が高まります。
※製品の仕様や取扱説明書の内容は変更されることがあります。最新情報は各メーカーの公式サイトでご確認ください。

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