押入れの上段は、布団をしまうと奥が使えず、衣装ケースを重ねると手前しか使えない場所になりがちです。棚を足せば片づくはずなのに、どんな寸法で何を支えにすればいいのか分からず、ホームセンターの木材売り場で迷ってしまう。押入れの棚づくりは、そこで止まりやすい作業です。
先に結論をお伝えすると、押入れ棚のDIYで最初に決めるのは材料ではありません。内寸の測り方、壁や柱に穴をあけてよいか、湿気がこもらない置き方の3つです。押入れは間口約182cmと言われても内側は約168cmしかなく、中段の裏には凹凸があります。賃貸ならビス穴の扱いが国土交通省のガイドラインで区分されていて、突っ張り柱にもメーカーが定めた使用条件があります。
この記事では、住宅情報サイトの寸法解説、国土交通省の原状回復ガイドライン、若井産業のディアウォール公式FAQ、札幌市保健所の結露対策、岐阜県生活技術研究所や北海道立総合研究機構の木材資料をもとに、押入れ棚を作る前に知っておきたい理屈を順番に解説します。
・押入れの間口・奥行き・中段を正しく測る手順と、内寸が呼び寸法より小さくなる理由
・すのこ・置くだけ棚・ディアウォール・ビス留め、支え方ごとの向き不向き
・賃貸でビス穴をあける前に確認したい国土交通省ガイドラインの区分
・棚板のたわみ・反りと、押入れに湿気をこもらせない棚の置き方
押入れ棚 diyは寸法から|呼び寸法と内寸のズレを知る

間口は約182cmでも、棚に使えるのは内側の約168cm
押入れの幅は、外から見た寸法と棚を入れられる寸法が違います。アットホームの押入れ解説では「幅(間口)が約182cm(内側約168cm)」と案内されています。
外から見た間口には左右の柱や壁の厚みが含まれるため、内側はそのぶん狭くなります。棚板を左右の壁にぴったり渡したいなら、使う数字は内寸のほうです。
やりがちなのは、間口の数字だけを見て棚板をカットしてもらい、押入れに入れようとしたら左右がつかえて入らないケースです。さらに、押入れの内寸は建築時期や住宅によって差があり、規格で決まった値ではありません。検索で見つかる寸法はあくまで目安です。
コツは、左右の壁の間を手前・中ほど・奥の3か所で測り、いちばん狭い値を採用することです。壁が完全に平行とは限らないため、1か所だけで測ると奥でつかえることがあります。棚板は採寸した内寸からわずかに短めにしておくと、入れるときに壁をこすりにくくなります。
奥行きは雑巾摺の手前から敷居の内側まで
奥行きも、外から見た数字と内寸に差があります。同じ解説では「奥行きが約91cm(内側約78cm)」とされ、測り方は雑巾摺の手前から敷居の内側までと案内されています。
雑巾摺は、押入れの奥や床と壁の境目に付いている細い横木です。棚板や収納ケースは、この横木より手前にしか置けません。また敷居の内側から測るのは、ふすまの溝の位置より前に棚がはみ出すと、ふすまが閉まらなくなるからです。
失敗例として多いのが、押入れの床に巻尺を当てて奥の壁まで測り、その数字で奥行きいっぱいの棚を作ってしまうことです。雑巾摺のぶん奥まで押し込めず、手前が敷居に掛かってふすまが閉まらない、という状態になります。
測るときは巻尺の先端を雑巾摺の手前の面に当て、敷居の内側の縁まで引きます。奥行きいっぱいに棚を作るより、手前に少し余裕を残しておくほうが、ふすまの開け閉めや物の出し入れで手が入りやすくなります。
中段の裏は凹凸がある|一番低い部分を基準に
下段に棚やキャスター付きのケースを入れる場合、中段の裏側までの高さが重要になります。アットホームの解説では、中段の裏面には凹凸があるとして「一番低い部分を基準に測ることをおすすめします。」と書かれています(出典)。
中段の棚板は、裏側に支えの横木(桟)が通っていることが多く、場所によって高さが違います。中央あたりで測った数字で棚を作ると、横木の下を通るときにつかえてしまいます。
やりがちなのは、床から中段の上面までを測ってしまうことです。中段の板の厚みと裏の横木のぶん、実際に使える高さはそれより低くなります。同じ解説では中段の高さを床から70〜80cm程度、下段の高さを約70〜80cmとしていますが、どちらも目安で、測り方は「下段は床から中段の下まで」と案内されています。
測り方は、床から中段の裏へ巻尺を立て、左右・前後で何か所か当ててみて、最も低い値をメモします。棚やケースの高さはその値より余裕を持たせます。下段に何を入れるかを決める前に、この数字を取っておくと計画がぶれません。
備え付け棚・天袋の寸法もいっしょに測る
押入れに最初から付いている棚がある場合は、その棚の内寸も測っておきます。これも同じ解説で案内されているポイントです。
備え付けの棚があると、その下や横に収まる寸法が新しく作る棚の上限になります。天袋も含めた押入れ全体の高さは天袋込みで約210〜230cmとされ、内訳は天袋約50cm・上段約90〜100cm・下段約70〜80cmが目安です。ただしこれも住宅による差が大きい数字です。
やりがちな失敗は、上段だけを測って棚を作り、あとから天袋の戸の開閉や備え付け棚の位置と干渉して入らないことです。押入れの寸法は1か所ずつ測るより、紙に断面図を描いて書き込むほうが、どこに何が入るか一目でわかります。
採寸メモには、間口の内寸、奥行きの内寸、中段の裏までの高さ、上段の高さ、備え付け棚の位置と内寸、天袋の高さを書いておきます。木材をカットしてもらうときや、収納ケースを選ぶときにもこのメモがそのまま使えます。
| 幅(間口) | 約182cm(内側約168cm) |
| 奥行き | 約91cm(内側約78cm)。雑巾摺の手前から敷居の内側まで測る |
| 高さ | 天袋含めて約210〜230cm(天袋約50cm・上段約90〜100cm・下段約70〜80cm) |
| 測り方の注意 | 中段の裏は凹凸があるため一番低い部分を基準に。規格値ではなく住宅で差がある目安 |
中段:押入れを上下に分ける棚板。天袋:押入れの上にある小さな収納。雑巾摺:押入れの奥や床と壁の境目に付く細い横木。敷居:ふすまが走る溝のある床側の横材。奥行きはこの雑巾摺の手前から敷居の内側までで測ります。
上段・下段・天袋、どこに何を置く?収納計画の考え方
下段は重い物と、引き出して使う物の場所
下段は、重さのある物や、キャスターで引き出して使う物に向いた場所です。床に近いので持ち上げる距離が短く、重い物を置いても腰より上に持ち上げる必要がありません。
理由は単純で、重い物ほど低い位置に置くほうが出し入れの負担が小さく、落下したときの危険も小さいからです。下段の高さは床から中段まで約70〜80cmが目安ですが、実際に使えるのは中段の裏の一番低い部分までです。
やりがちなのは、下段に背の高い棚を組んで上まで物を積み、奥に入れた物が取り出せなくなることです。下段は奥行きが深いため、棚を作るより、引き出せるケースや台車で奥の物を手前に引き出せるようにするほうが使いやすい場合があります。
計画のコツは、下段に置く物を重い・使う頻度が高い・引き出せるの3条件で選ぶことです。棚を作るなら、奥の物まで手が届く浅い棚にするか、手前と奥で使い方を分けると死蔵品が減ります。
上段は棚で区切ると奥まで使いやすい
上段は高さ約90〜100cmが目安で、押入れの中でいちばん目線に近い場所です。ここを棚で上下に区切ると、高さを持て余していた空間が使えるようになります。
上段は布団を入れる前提の寸法なので、細かい物をそのまま置くと上半分が空いてしまいます。棚を1段足すだけで、下に衣装ケース、上にかごや箱、という具合に容量を増やせます。
失敗しやすいのは、奥行きいっぱいの棚板を作ってしまい、奥に置いた物が見えず取り出せないことです。内側約78cmの奥行きは手を伸ばしても届きにくく、棚の奥に物が埋もれます。
コツは、棚板の奥行きを内寸より浅くし、手前にスペースを残すことです。奥には季節外の物、手前にはよく使う物、と前後で役割を分けておくと、奥まで無理に手を伸ばす回数が減ります。
天袋は軽い物と季節物の場所
天袋は高さ約50cmが目安の小さな収納です。踏み台に乗らないと届かない位置にあるため、軽くて年に数回しか出さない物に向いています。
高い位置に重い物を置くと、取り出すときに体勢が崩れやすく、落としたときにけがの原因になります。天袋に新しく棚を作るより、軽い箱をそのまま並べるほうが、出し入れの手間も危険も小さくなります。
やりがちな失敗は、天袋に工具箱や本など重い物を入れてしまうことです。出すたびに踏み台の上で重い物を持ち上げることになります。
天袋には季節の飾り物や来客用の軽い寝具など、重さがなく使用頻度の低い物を選ぶのがコツです。中身がわかるようにラベルを付けておくと、確認のために何度も下ろす手間も省けます。
中段は残す前提で計画する
押入れをクローゼットのように使いたくて、中段を外したいと考える人もいます。ただ、この記事では中段を残す前提で棚を計画することをおすすめします。
中段は押入れの造作の一部で、壁や柱にどう固定されているかは住宅によって違います。外し方も、外したあとの壁の補修も一律には説明できません。賃貸の場合は、中段を外すこと自体が契約上の問題になりえます。
やりがちなのは、外してから壁に大きな穴や欠けが残り、元に戻せなくなることです。持ち家でも、元に戻す方法がわからないまま外すのは避けたほうが無難です。
中段を残しても、上段と下段それぞれに棚やケースを入れれば収納量は増やせます。中段を外したいときは、賃貸なら貸主・管理会社に、持ち家なら住宅の施工会社などに構造を確認してから判断するのが安全です。
| 項目 | 下段 | 上段 | 天袋 |
|---|---|---|---|
| 高さの目安 | 約70〜80cm | 約90〜100cm | 約50cm |
| 向いている物 | 重い物・引き出して使う物 | よく使う物・衣類・布団 | 軽い季節物 |
| 注意点 | 中段の裏の一番低い部分が上限 | 奥行きいっぱいの棚は奥が死蔵しやすい | 重い物を置かない |
押入れ棚の支え方は4通り|穴をあけるかどうかで選ぶ

すのこ・収納ケースで組む置くだけ棚
いちばん手軽なのは、すのこや収納ケースを組み合わせて置くだけの棚です。壁にも柱にも何も固定しないので、賃貸でも原状回復の心配がほぼありません。
すのこには、床や壁から収納物を離して空気を通すという役割もあります。札幌市保健所は押入れの結露対策として、すのこの設置を挙げています(後半の湿気対策の章で詳しく扱います)。棚づくりと湿気対策を同時にこなせるのが、この方法の利点です。
やりがちな失敗は、すのこを立てて棚にしたものの、横からの力で倒れたり、上に重い物を載せてたわんだりすることです。すのこはもともと床に敷く前提の部材で、棚板として重い物を支える設計とは限りません。
コツは、重い物は床に近い位置に置き、すのこ棚には軽い物を載せることです。製品に耐荷重の表示がある場合は、その範囲で使います。収納ケースを積む場合も、下に重いケース、上に軽いケースの順にすると安定します。
2×4材で柱を立てるディアウォールの仕組み
押入れの中に柱を立てて棚を付けたい場合、突っ張り式の部材を使う方法があります。若井産業はディアウォールを「ばねの力で上下につっぱることで、室内に柱を作れるアイテム。」と説明しています(若井産業公式)。
2×4材の上下にこの部材を取り付け、ばねで床と天井に押し付けて固定します。壁や天井にビスを打たずに柱が立つので、その柱に棚受けを付ければ棚になります。2×4材の断面は、呼び名のインチ数より小さい38×89mmが目安です。乾燥させる段階で寸法が変わるため、実寸は厚さ1.5インチ・幅3.5インチ程度で規格化されています。
やりがちなのは、壁や天井に穴をあけないから何にでも使える、と考えてしまうことです。突っ張り式には、設置できない場所や棚板の出し方などの条件があります。次の章で詳しく扱います。
コツは、購入前にメーカー公式のFAQで使用条件を確認することです。押入れの中段や天井の状態によっては、突っ張りに向かないこともあります。

1×4材の柱は薄くたわみやすい
柱に使う木材は、2×4材と1×4材で強さが違います。1×4材の断面は19×89mmが目安で、2×4材と幅は同じですが、厚みが半分ほどです。
ディアウォールの公式FAQでは、1×4・1×6は2×4・2×6に比べて薄く、たわみやすいため高さ制限がある、と案内されています。木材は厚みが薄いほど曲がりやすく、長い柱ほどその影響が大きくなります。
やりがちな失敗は、押入れの中だから細い材でいいだろうと1×4材を選び、棚に物を載せたら柱がしなって棚が傾くことです。押入れの天袋を含めない高さでも、柱としては短くない長さになります。
コツは、棚に重い物を載せる予定があるなら2×4材を選ぶことです。1×4材を使う場合は、メーカー公式が示す高さ制限を必ず確認します。

ホームセンターの木材売り場で1×4と書かれた板を手に取り、寸法を測ってみたら4インチどころか少し細い。そんな経験から、1×4材の本当のサイズを調べている方は多い…
賃貸・持ち家・はじめての人での選び分け
支え方は、住まいの条件と経験で選ぶのが近道です。賃貸ならまず穴をあけない方法、持ち家ならビス留めも選択肢、はじめての人なら置くだけ棚から、という順番がわかりやすいでしょう。
理由は、ビス留めは強度を出しやすい反面、穴が残ること、ディアウォールは穴をあけない代わりに使用条件が多いこと、置くだけ棚は手軽な代わりに重い物に向かないことです。どれが正解というより、条件で向き不向きが分かれます。
やりがちなのは、強そうだからと賃貸で壁にビスを打ってしまい、退去時の扱いで困ることです。逆に持ち家で、重い物を載せる棚を置くだけで済ませ、たわみが出ることもあります。
選び方の目安は下の表のとおりです。支え方ごとの数値や注意点は、記載のある出典だけを並べました。
| 項目 | すのこ・置くだけ | ディアウォール | ビス留め |
|---|---|---|---|
| 壁・柱の穴 | あけない | あけない(ばねで突っ張る) | あける |
| 出典にある条件 | 押入れの結露対策としてすのこ設置(札幌市保健所) | 棚板は柱表面から40mm以内、床と天井が水平(若井産業FAQ) | 重量物用のくぎ穴・ネジ穴はB区分(国土交通省ガイドライン) |
| 向いている人 | はじめての人・賃貸 | 賃貸で柱を立てたい人 | 持ち家・許可を得た賃貸 |
| 注意点 | 重い物でたわみやすい | 棚の耐荷重は使用状況で大きく異なる | 穴が残る・下穴と下地の確認が要る |
賃貸で穴をあけてもいい?国交省ガイドラインの読み方
画鋲・ピンの穴は通常損耗として扱われる
賃貸の退去時に何を元に戻すべきかについては、国土交通省が原状回復をめぐるトラブルとガイドラインを公表しています。この中で「壁等の画鋲、ピン等の穴」は、下地ボードの張替えが不要な程度のものとして、通常の住まい方でも発生するもの(A区分)に分類されています。
画鋲やピンの穴は小さく浅いため、ふつうに暮らしていても生じる損耗と考えられている、ということです。ポスターやカレンダーを貼る程度の穴は、この区分に入ります。
やりがちなのは、画鋲が大丈夫ならネジも同じだろうと考えてしまうことです。ガイドラインでは、穴の大きさや目的で区分が変わります。
押入れの壁に軽いフックを付けるくらいなら画鋲・ピンの範囲で済む場合もありますが、棚を支えるとなると話が変わります。次の区分を必ず確認してください。
重量物を掛けるくぎ穴・ネジ穴はB区分
同じガイドラインで、「壁等のくぎ穴、ネジ穴(重量物をかけるためにあけたもの」で下地ボードの張替えが必要な程度のものは、賃借人の使い方次第で発生するもの(B区分)とされています(国土交通省ガイドライン)。
理由として、くぎやネジの穴は画鋲などに比べて深く、範囲も広いため、通常の使用による損耗を超えると判断されることが多いと考えられる、と説明されています。棚を支えるビスは、まさに重い物を掛けるための穴にあたります。
押入れの棚を壁にビス留めすると、強度は出しやすい反面、この区分に入る穴が残る可能性があります。退去時に補修の費用を求められる根拠になりうる、ということです。
賃貸でビス留めを考えるなら、まず穴をあけない方法で代わりが効かないかを検討し、それでもビス留めしたい場合は事前に承諾を得る、という順番が安全です。
状況:押入れは見えない場所だからと、壁に棚受けレールをビスで固定した。
原因:重い物を支えるためのネジ穴は、国土交通省ガイドラインでは借りる側の使い方次第で発生するもの(B区分)に分類されている。見えない場所でも退去時の確認対象になる。
対策:穴をあけない置くだけ棚や突っ張り柱を先に検討し、ビス留めが必要なら事前に貸主・管理会社の承諾を得る。
契約が優先されうる|事前に貸主・管理会社へ確認
ガイドラインは目安を示した資料で、実際の扱いは賃貸借契約の内容が優先されうる点に注意が必要です。契約書に特約がある場合は、そちらが基準になることがあります。
ガイドラインでも、家具の転倒防止のために壁に穴をあける場合について、予め「賃貸人の承諾」を得るか、くぎやネジを使用しない方法等を検討することが考えられる、と書かれています(出典)。棚の固定も同じ考え方で臨むのが無難です。
やりがちなのは、口頭で何となく大丈夫と言われた気がして、そのままビスを打ってしまうことです。退去時に担当者が変わっていると、言った言わないの話になりがちです。
コツは、どこにどんな穴をあけたいかを具体的に伝え、承諾は書面やメールなど記録に残る形でもらっておくことです。返事を待つ間は、穴をあけない方法で仮の収納を作っておけば困りません。

賃貸の部屋に棚をつけたい。でも壁に穴をあけたら、退去のときに何か言われるかもしれない。そう考えて、棚を買う前の段階で手が止まっている人もいると思います。ネットで…
結露を放置したカビも借りる側の扱いになりうる
押入れ棚の話で見落としやすいのが、カビの扱いです。ガイドラインでは「賃借人が結露を放置したことで拡大したカビ、シミ」(賃貸人に通知もせず、かつ、拭き取るなどの手入れを怠り、壁等を腐食させた場合)は、賃借人の使い方次第で発生するもの(B区分)とされています。一方で、ガイドラインは「結露は建物の構造上の問題であることが多い」とも書いており、結露に気づいたら拭き取り、貸主・管理会社に知らせておくことが大切です(国土交通省ガイドライン)。
押入れは空気がこもりやすく、棚で物を詰め込むほど通気が悪くなります。穴をあけずに棚を作っても、結露を放置してカビを広げてしまえば、退去時の扱いが変わる可能性があります。
やりがちなのは、穴をあけていないから原状回復は大丈夫、と安心して、押入れの奥の壁を確認しないまま何年も過ごすことです。
賃貸の押入れ棚は、穴の問題と湿気の問題をセットで考えるのがコツです。湿気対策の具体的な方法は、後半の章で札幌市保健所の資料をもとに整理します。
突っ張り柱ディアウォールを押入れで使うときの条件
設置できない場所を先に確認する
ディアウォールの公式FAQには、設置できない場所が具体的に書かれています。壁際から離れた場所について、若井産業は「設置できません。間仕切りなど、壁際から離れた場所に設置した場合、転倒の危険性が高まるためです。」と案内しています(ディアウォール公式FAQ)。
ほかにも、カーペットの上は「カーペットがずれた際に転倒する恐れがあるため」設置できない、振動や衝撃が加わる場所、水気の多い場所や長時間の直射日光が当たる場所も設置できない、と挙げられています。水気・直射日光については「ディアウォール(ABS樹脂)や木材の劣化を促進される場所には設置しないでください。」とも書かれています。畳やクッションフロアーは設置不可ではなく、「下パッドが沈み込むことで、突っ張る力が弱まる恐れがあります。」として、広めの板を滑らないように敷くなど床材が沈み込まない対策を求めています(ディアウォール公式FAQ)。
押入れで気をつけたいのは、床の仕上げと湿気です。床に畳が入っている押入れや、クッションフロアーが張られている場合は、公式FAQのとおり広めの板を滑らないように敷くなど、下パッドが沈み込まない対策が要ります。また、結露が出たり水気がこもったりする押入れは、公式FAQが設置できないとする「水気の多い場所」や、ABS樹脂や木材の劣化を促進する場所にあたるおそれがあります。後半で扱う結露が起きている押入れには立てないでください。中段の上に立てる場合も、中段の板が突っ張る力を受け止められるかは住宅によって違います。
コツは、設置したい位置の床と天井の素材を確認し、公式FAQの条件と照らし合わせることです。条件に合わない場合は、無理に突っ張らず置くだけ棚に切り替えるほうが安全です。
床と天井が共に水平な場所に限る
公式FAQでは「床と天井が共に水平な場所に設置してください。」とされています(出典)。
突っ張り式は、上下から真っすぐ押し付けることで柱を固定します。床か天井のどちらかが傾いていると、押し付ける力が斜めにかかり、ずれたり外れたりしやすくなります。
やりがちなのは、押入れの天井を確認しないまま設置してしまうことです。押入れの天井は、部屋の天井とは仕上げが違い、薄い板が張られているだけのこともあります。突っ張る力で天井板が持ち上がってしまうと、固定が甘くなります。
確認のコツは、設置位置の床と天井に水平器を当ててみることと、天井を手で軽く押してたわまないかを確かめることです。少しでも不安があれば、別の支え方を選びます。
棚板は柱の表面から40mm以内に収める
ディアウォールで立てた柱に棚を付ける場合、棚板の出し方にも条件があります。公式FAQでは「柱に使用した木材の表面から40㎜以内に収まるようにしてください。」とされています(ディアウォール公式FAQ)。
公式FAQは続けて「万が一おさまらない場合は、棚板に脚を取り付け転倒しないようにするか、棚と棚に置くものを合わせた重心が下図の青い箇所の範囲内に収まるようにしてください。」としています。つまり40mmの条件は、棚と載せた物の重心を柱の近くに収めて、転倒を防ぐためのものです。
やりがちなのは、押入れの奥行きを活かそうと、柱から棚板を大きく張り出させることです。公式FAQが示す帰結は転倒です。収まらない場合は、棚板に脚を付けるか、重心を柱の近くに収めます。また、棚の耐荷重について公式FAQは「使用状況により大きく異なります。」としていて、具体的な数値は示されていません。
コツは、奥行きの深い棚がほしい場合でも、柱の位置を工夫して棚板の出を条件内に収めることです。載せる物は軽い物から始め、柱や棚の様子を見ながら使います。
カットしすぎは4mmまで|家具転倒防止には使わない
柱にする木材は、床から天井までの高さに合わせてカットします。公式FAQでは、本来の長さから切りすぎた長さが4mmまでなら使用できるとされています。
4mm以内の切りすぎは、付属のスペーサー(厚さ2mm)を下パッドに挿入して調整するよう案内されています。それを超えて短くした木材は使えないと考えて、カットは慎重に行いましょう。また、公式FAQは「使用できません。ディアウォールには家具転倒防止の機能はありません。」とも明記しています(出典)。
やりがちなのは、柱を立てたついでに押入れの横の家具を支えさせることや、柱や棚に手を掛けて体重を預けることです。公式FAQでは、柱や取付物に登ったり体重をかけたりすることを「危険なため絶対にしないでください。」とし、扉を付けるなど体重のかかる行為・用途は「転倒の恐れがあります。」としています。塗装する場合も、対応した塗料を使うよう案内されています。
設置の流れは下のとおりです。各手順の細かい数値は、使う製品の取扱説明書で確認してください。
棚板がたわむ・反るのはなぜ?木材の性質から考える
棚板に求められるのはたわみが十分に小さいこと
棚板の強さというと折れないことを思い浮かべがちですが、実際に問題になるのは折れる前のたわみです。岐阜県生活技術研究所の報告では、棚板には物を載せたときに生じるたわみが十分に小さいことが求められる、と整理されています。
棚板が目に見えてしなると、載せた物が奥や中央に寄って不安定になり、長く使ううちに板そのものが曲がったままになることもあります。家具の分野では、オフィス家具の収納家具についてJIS S 1033:2015、机・テーブルについてJIS S 1031:2016が関連する規格として挙げられています。
やりがちなのは、押入れの内側約168cmいっぱいに1枚の棚板を渡し、中央に重い物を置いてしまうことです。支える点の間隔が長いほど、中央は大きくたわみます。
対策の考え方は、支える点の間隔を短くすることです。長い棚板を使うなら中間に支えを入れる、重い物は支えの近くに置く、といった工夫でたわみを抑えられます。
状況:左右の壁際だけで棚板を支え、中央に本や衣装ケースを載せたら、数週間で棚板が弓なりにしなった。
原因:支える点の間隔が長いほど中央のたわみは大きくなる。棚板には、物を載せたときのたわみが十分に小さいことが求められる。
対策:中間に支えを入れて支点の間隔を短くする。重い物は支えの近くに寄せ、中央には軽い物を置く。
計算では安全率1.2程度で材料のばらつきを見込む
同じ報告では、棚板のたわみを検討するツールについて、100kgf/m2の等分布負荷時のたわみとたわみ率を計算する、とされています。さらに木材の弾性率にはばらつきがあるため、「安全率を1.2程度に決めて計算」することで検討支援ツールとして運用できる、と書かれています(岐阜県生活技術研究所)。
弾性率は、材料の曲がりにくさを表す値です。木材は天然の材料なので、同じ樹種・同じ寸法でも1枚ごとに曲がりにくさが違います。計算どおりにならない板があることを見込んで、余裕を持たせるのが安全率の考え方です。
やりがちなのは、売り場で隣にあった板と同じだから大丈夫だろう、と考えることです。見た目が同じでも、たわみ方は違うことがあります。
家でのDIYで計算までする必要はありませんが、考え方は活かせます。棚板はぎりぎりの寸法や本数で組まず、支えを1つ多めにする、厚みに余裕のある板を選ぶ、といった余裕を持たせることが、ばらつきへの備えになります。

板目板は反りやすい|接線方向は半径方向の2倍収縮
たわみとは別に、棚板が乾燥で反ることもあります。北海道立総合研究機構の資料では、木材について「接線方向は半径方向の2倍収縮しますから」板目板は乾燥で反る、と説明されています(北海道立総合研究機構 林産試験場)。
木材は、年輪の接線方向と、中心から外へ向かう半径方向とで、乾燥したときの縮み方が違います。年輪が板の面に対して弧を描く板目板は、表と裏で縮む量が違うため、反りが出ます。一方、年輪が板の面に対して垂直に近い柾目板は、収縮はするものの反りはほとんど生じない、とされています。
やりがちなのは、木目がきれいだからと板目の板を選び、押入れに入れてしばらくしたら棚板が反って物が傾くことです。押入れは湿度が変わりやすい場所なので、反りが出やすい条件がそろっています。
コツは、板を買うときに木口(板の端の断面)を見て年輪の向きを確認することです。板目板を使う場合は、反りを想定して棚受けで両端をしっかり支えます。
使う場所の含水率まで乾燥した材を選ぶ
反りや割れを防ぐ根本は、材料の乾燥状態です。北海道立総合研究機構の資料では「あらかじめ,使用場所に応じた含水率まで乾燥して使うことが大原則といえます」とされています(北海道立総合研究機構 林産試験場)。
含水率は、木材に含まれる水分の割合です。水分の多い木材を使うと、使う場所で乾燥が進むにつれて縮み、反りや割れ、すき間が出ます。先に使う場所の状態に近づけておけば、組んだあとの変形を小さくできます。
やりがちなのは、買ってきた木材をすぐに切って組み立ててしまうことです。売り場と家の中では湿度が違うことがあり、組んだあとに寸法が変わります。
コツは、乾燥材と表示された木材を選ぶことと、買った木材をしばらく押入れのある部屋に置いて環境になじませてから加工することです。材料の規格表示の読み方は、木材のJASを扱った記事も参考になります。
押入れの湿気とカビを増やさない棚の置き方
押入れは空気が流れにくく冷えやすい場所
押入れの棚づくりで、寸法と同じくらい大事なのが湿気です。札幌市保健所の結露・カビ対策では「押入れの中や家具の裏側など、空気の流れが悪く冷えやすい場所では、結露が発生しやすくなります。」と説明されています。
結露は、暖かく湿った空気が冷たい面に触れて、水滴になる現象です。押入れはふすまで閉じられ、外壁に面していることも多いため、奥の壁が冷えやすく、空気も入れ替わりにくい場所です。
やりがちなのは、押入れの奥の壁にぴったり棚や収納ケースを付けてしまうことです。壁と物の間で空気が動かず、そこで結露が起きても気づきにくくなります。
棚の計画では、物を入れる場所だけでなく、空気の通り道も一緒に考えるのがコツです。奥行き約78cmを全部使い切らない理由は、出し入れのしやすさだけでなく、通気のためでもあります。
すのこで床・壁から収納物を離す
札幌市保健所は、結露対策の一つとして「押入れには「すのこ」を設置する。」を挙げています(出典)。
すのこを床や壁との間に入れると、収納物と冷えやすい面の間にすき間ができ、空気が通ります。布団や衣類が直接壁や床に触れないので、湿気がこもりにくくなります。
やりがちなのは、すのこを敷いた上に物を隙間なく詰め込んでしまうことです。すのこの上で空気が動かなければ、すき間を作った意味が薄れます。
コツは、すのこを床だけでなく奥の壁側にも立てかけることと、すのこの上でも物を詰めすぎないことです。置くだけ棚をすのこで組めば、棚と通気を同時に確保できます。
壁との間をあける・狭い空間は除湿剤
同じ資料では、ほかにも「家具と壁との間をあける。」こと、そして「押入れなど狭い空間では、市販の除湿剤の使用も有効です。」と案内されています(札幌市保健所)。また、結露のできやすい押入れや壁面に断熱材を使うと、温度差が改善し結露を防げる、とも説明されています。
壁との間をあけるのは、冷えた壁と収納物の間に空気を通すためです。除湿剤は、押入れのように空気が入れ替わりにくい場所の湿気を減らす助けになります。カビの予防としては、水滴をふき取り、除湿を行うことが挙げられています。
やりがちなのは、除湿剤を置いたことで安心し、水がたまっても交換しないまま放置することです。いっぱいになった除湿剤は、それ以上湿気を取れません。
棚を作るときは、壁との間をあけた位置に柱や棚受けを配置し、除湿剤を置く場所も最初から確保しておくのがコツです。定期的にふすまを開けて換気することも、手間のかからない対策です。
実は棚を増やすほど湿気対策が必要になる
意外と知られていないけれど、押入れに棚を足して収納量を増やすことは、湿気の面では不利に働きやすい作業です。棚が増えるほど物が増え、空気の通り道が狭くなるからです。
結露が起きやすい条件は、空気の流れが悪く、冷えやすいことでした。棚で空間を細かく区切り、それぞれに物を詰め込むと、押入れ全体の空気はますます動かなくなります。収納の効率を上げるほど、湿気がこもる条件もそろっていくわけです。
やりがちなのは、棚を作ったことで収納が増えたぶん、季節外の衣類や布団をすべて押入れに押し込み、ふすまも開けなくなることです。賃貸なら、結露を放置して広がったカビは借りる側の扱いになりうる点も思い出してください。
コツは、棚の計画段階で空気の通り道を残すことです。奥の壁から離す、棚と棚の間を詰め込みすぎない、ふすまを時々開ける。この3つを意識するだけで、棚を作っても湿気のこもりにくい押入れにできます。
まとめ
押入れ棚のDIYは、材料を買いに行く前の準備で仕上がりの大半が決まります。最初の一歩は、巻尺を持って押入れの前に立ち、間口の内寸を手前・中ほど・奥の3か所で、奥行きを雑巾摺の手前から敷居の内側まで、中段の裏を一番低い部分で測って紙に書き出すことです。その数字と、住まいが賃貸か持ち家かがわかれば、置くだけ棚・突っ張り柱・ビス留めのどれを選ぶかが自然に決まり、湿気のこもらない棚の配置も考えやすくなります。
※製品の使用条件やガイドラインの内容は改定されることがあります。最新情報は各公式サイトでご確認ください。

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