ビスの袋に書かれた「三価ユニクロ」「クロメート」、ボルトの仕様欄にある「電気亜鉛めっき」。ホームセンターの金物売り場で、こうした表示の意味がわからないまま「とりあえず安い方」を選んでいませんか。表面が銀色や黄色に光っているのは、ほとんどの場合、鉄の表面に別の金属の膜を付けた「めっき」です。そして、その膜をどうやって付けたかで、厚みも、錆びにくさも、向いている場所も変わります。
先に結論をお伝えすると、電気メッキは「金属イオンを含む水溶液の中で、電流を使って材料の表面に金属を付着させる方法」で、薄い膜をつくるのが得意です。一方、溶けた金属に浸す溶融めっきは厚い膜になり、長く雨風にさらされる場所に向くとされています。ビスの「ユニクロ」は、この電気亜鉛めっきのあとに化成皮膜処理をしたものの呼び名です。
この記事では、日本製鉄の解説資料、若井産業・ミカサ(ねじメーカー)の技術資料、日本建設業連合会の資料といった一次情報をもとに、電気メッキの原理から、溶融めっきとの違い、亜鉛が鉄を守る理屈、ビスの表面処理の読み方、高強度ボルトの水素脆性まで、DIYで金物を選ぶときに役立つ順番で整理していきます。
・電気メッキが「水溶液+電流」で金属の膜をつくる仕組みと、薄めっきに向く理由
・溶融めっきとの厚みの違い(電気錫めっき0.4μm程度/溶融めっき7〜40μmが一般的)と使い分け
・ビス袋の「三価ユニクロ」「クロメート」「ダクロ」が何を意味するか
・電気めっきしたボルトで注意したい水素脆性とベーキングの考え方
電気メッキとは?水溶液と電流で金属の膜を貼る仕組み

材料をマイナス側にして、金属イオンを表面に呼び寄せる
電気メッキは、めっきしたい金属のイオンが溶けた水溶液に材料を入れ、電流を流して表面に金属の膜を付ける方法です。材料側を陰極(マイナス)、反対側の電極を陽極(プラス)にすると、プラスの電気を帯びた金属イオンが材料の表面へ引き寄せられ、そこで金属に戻って膜になります。
鉄鋼メーカーの日本製鉄は、鋼板の電気めっきについて「めっきイオンを含む水溶液中をくぐる鋼板の両側に電極を置き、めっき金属を表面に付着させる方法。飲料缶などに使われる錫めっき(ぶりき)などの薄めっきに適している。」と説明しています(日本製鉄の解説資料(PDF))。
やりがちな誤解は「めっき=塗装の一種」と考えることです。塗料は樹脂の膜を上から塗るものですが、電気メッキは金属そのものを電気の力で析出させる点が違います。だから表面は金属光沢を持ち、導電性もあります。ビスやボルトの表示を見るときは、「何の金属を」「どの方法で」付けたかの2点を分けて読むのがコツです。
なぜ電気めっきは「薄い膜」が得意なのか
電気メッキは、流す電気の量に応じて金属が少しずつ積み重なっていく方法なので、膜を薄く、狙った厚みでそろえやすいのが特徴です。日本製鉄の資料では、容器材の電気錫めっきの厚みの例として0.4μm(2.8g/㎡)程度という値が示されています。
理由は、工程の性質にあります。溶けた金属に丸ごと浸す方法だと、引き上げたときに付いた分がそのまま膜になるため、ある程度の厚みが出ます。これに対して電気メッキは、イオンが表面に届いた分だけが膜になるため、薄く均一な膜をつくる用途に向くわけです。同じ資料には「飲料缶などの容器や屋内で使われる家電製品など、めっき厚が薄い方が適しているものには「電気めっき」」という整理もあります(日本製鉄の解説資料(PDF))。
注意したいのは、「薄い=劣っている」ではない点です。缶のように薄さそのものが求められる製品もあります。DIYでは、薄い膜が向く場所と、厚い膜が要る場所を分けて考えることが、金物選びの出発点になります。
アルミやマグネシウムを電気めっきにできない理由
電気メッキでは、どんな金属でも膜にできるわけではありません。日本製鉄の資料の表には、電気めっきで使われる金属としてZn(亜鉛)、Ni(ニッケル)、Cr(クロム)、Cu(銅)、Sn(錫)、Au(金)、亜鉛系の合金などが挙げられていますが、アルミニウムやマグネシウムは含まれていません。
その理由について、同資料は「水溶液中でめっきする電気めっきの場合は、鉄よりも溶けやすい元素の中でも、アルミニウムやマグネシウムなどは水の電気分解が著しく金属にならないため、めっき材として使うことができない。」と説明しています(日本製鉄の解説資料(PDF))。電流が金属の析出ではなく、水を分解する方に使われてしまうわけです。
この話がDIYにどう関係するかというと、「銀色だからアルミめっき?」と見た目で判断しないための知識になります。ビスやボルトの銀白色の表面は、多くの場合、亜鉛やニッケルなどのめっき、あるいはステンレスそのものです。素材と表面処理は、パッケージや仕様表の表記で確認するのが確実です。
陰極・陽極:電気メッキで電流を流すときのマイナス側とプラス側。めっきされる材料は陰極側に置かれます。
めっきイオン:水溶液に溶けている、膜にしたい金属のイオン。材料の表面で金属に戻って膜になります。
μm(マイクロメートル):ミリメートルをさらに千分の一に刻んだ長さの単位。めっきの厚みはこの単位で表されます。
そもそも鉄はどうして錆びる?めっきが割って入る場所
めっきの目的の多くは、鉄を錆から守ることです。日本製鉄の資料では、鉄の錆について、鉄と水、酸素が電気化学反応を起こして鉄イオンが溶け出し、その酸化物(FeOOH)が錆になると説明されています。つまり錆は「鉄・水・酸素」の3つがそろったときに進む反応です。
めっきは、この反応のどこかに割って入る役目をします。水や酸素を鉄に届かせない「ふた」になるのか、鉄より先に溶けて鉄の身代わりになるのか。この違いが、あとで説明する「バリア型」と「犠牲防食型」の分かれ目です。
家でやるDIYでありがちなのが、屋内で使っていた金物をそのまま浴室まわりやベランダへ転用し、数か月で赤茶色の錆が出てくるパターンです。水と酸素に触れる時間が長くなれば、錆の反応も進みやすくなります。どの環境で使う金物なのかを最初に決めておくと、めっきの選び方がぶれません。
0.4μmと7〜40μm——溶融めっきとは厚みで用途が分かれる
溶融めっきは「溶けた金属に浸す」方法
電気メッキとよく比べられるのが溶融めっきです。日本製鉄の資料では「「溶融めっき」は、溶けた金属に材料を浸して表面にめっき金属を付着させる。」と説明されています(日本製鉄の解説資料(PDF))。電気を使って少しずつ積む電気メッキに対し、溶融めっきは高温で溶かした金属に材料をくぐらせて、まとめて膜をまとわせる方法です。
方法が違えば、できあがる膜の性格も変わります。溶けた金属から引き上げたときに表面に残った分が膜になるため、電気メッキより厚くなる傾向があります。屋外の鉄骨や建築金物で見かける、少しざらっとしたグレーの表面は、溶融亜鉛めっきであることが多いものです。
ここで混同しやすいのが「亜鉛めっき」という言葉です。電気亜鉛めっきも溶融亜鉛めっきも、付けている金属は同じ亜鉛です。違うのは付け方と厚みなので、仕様表で「亜鉛めっき」とだけ書かれている場合は、どちらの方法なのかまで確認すると判断を誤りにくくなります。
厚みの差が、錆びにくさの差になる理屈
日本製鉄の資料では、溶融めっき鋼板について「めっきの厚みは7〜40μmが一般的だ。」とされています(日本製鉄の解説資料(PDF))。電気錫めっきの例が0.4μm程度ですから、桁が違うことがわかります。
厚みが錆びにくさに効く理由は、亜鉛めっきの守り方にあります。亜鉛は鉄より先に溶けて鉄を守るため、膜が厚いほど「身代わりになれる量」が多く、長い期間守り続けられるわけです。資料でも、腐食環境が過酷で長期の防錆が必要なものには溶融めっき、という使い分けが示されています。
ただし、これは方法ごとの一般的な傾向で、すべての製品にそのまま当てはまるわけではありません。製品ごとの膜厚や耐食性はメーカーにより異なるため、気になる場合は仕様表の記載を確認するのが確実です。
| 項目 | 電気めっき | 溶融めっき |
|---|---|---|
| しくみ | めっきイオンを含む水溶液中で、電流により金属を表面に付着させる | 溶けた金属に材料を浸して、表面に金属を付着させる |
| 厚みの例 | 電気錫めっきで0.4μm(2.8g/㎡)程度 | 7〜40μmが一般的(鋼板) |
| 向いている用途 | 飲料缶などの容器、屋内で使われる家電製品など、薄い方が適するもの | 腐食環境が過酷で、長期の防錆が必要なもの |
| 使える金属の例 | Zn・Ni・Cr・Cu・Sn・Au など(アルミ・マグネシウムは不可) | 亜鉛など |
出典:日本製鉄の解説資料(PDF)の記述をもとに編集部で整理
屋内の家電と、屋外の構造物で使い分けられている
日本製鉄の資料では、使い分けの考え方として、めっき厚が薄い方が適するものには電気めっき、腐食環境が過酷で長期の防錆が必要なものには溶融めっき、という整理がされています。屋内で使われる家電製品が電気めっきの例として挙げられているのは、雨にさらされず、湿気や塩分の影響も限られる環境だからです。
この考え方は、DIYの金物選びにもそのまま応用できます。室内の棚受けや家具の組み立てに使う金物と、屋外のフェンスや物置まわりに使う金物では、求められる守りの強さが違います。前者なら薄くきれいな電気メッキの仕上がりが活きますし、後者では膜の厚みが効いてきます。
やりがちなのは、見た目の光沢だけで「きれいだから錆びにくそう」と判断することです。電気メッキの表面は光沢があって見栄えがよい一方、厚みの面では溶融めっきと桁が違うことがあります。光り方ではなく、使う場所と仕様表の表記で選ぶのが、失敗しにくい選び方です。
JIS H 8641は2021年12月に「膜厚」で表すように変わった
溶融亜鉛めっきについては、日本産業規格(JIS)で品質が定められています。日本建設業連合会の資料によると、「2021年12月にJIS H 8641「溶融亜鉛めっき」、 JIS H 0401「溶融亜鉛めっき試験方法」が改正され、めっき皮膜の規定が付着量から膜厚になり、それに伴いめっきの種類の記号も下表のように変わりました。」とされています(日本建設業連合会の資料(PDF))。
同資料の対応表では、旧記号の1種A(HDZ A、250g/㎡以上)に相当する新記号がHDZT 35で膜厚35μm以上、旧記号の2種55(HDZ 55、550g/㎡以上)に相当する新記号がHDZT 77で膜厚77μm以上と示されています。記号の数字が、そのまま膜厚のμmを表すようになったわけです。
注意したいのは、古いカタログや図面には旧記号の「HDZ」表記が残っていることです。新旧の記号が混在していても、上記の対応を知っていれば読み替えられます。電気メッキの製品にはこの規格は当てはまらないので、混同しないようにしましょう。
傷がついても錆びにくい?亜鉛が鉄の「身代わり」になる理屈

犠牲防食:亜鉛が先に溶けて鉄を守る
亜鉛めっきの守り方は「犠牲防食」と呼ばれます。日本製鉄の資料は「前者は、亜鉛やアルミなど鉄よりも酸化しやすく溶けやすい金属を被覆し、その金属が優先的に溶けることで鉄を守るというもの。」と説明しています(日本製鉄の解説資料(PDF))。
鉄と亜鉛が水に触れた状態では、より溶けやすい亜鉛の方が先に反応します。そのため、亜鉛が残っているあいだは鉄の錆の反応が進みにくくなるわけです。膜を「ふた」としてだけ使うのではなく、鉄の代わりに溶ける「身代わり」として使う考え方です。
DIYでよくある勘違いが、「めっきに小さな傷が付いたら、そこから一気に錆びる」と思い込んでしまうことです。亜鉛めっきの場合、傷の周りに亜鉛が残っていれば、その亜鉛が鉄を守る働きを続けます。とはいえ亜鉛自体も減っていくので、傷を放置してよいという意味ではありません。身代わりの量には限りがある、と覚えておくのが正確です。
バリア型:傷があると下から赤錆が出る
犠牲防食と対になるのが「バリア型」です。日本製鉄の資料では、鉛や錫など鉄より腐食しにくい金属で被覆し、水と酸素が鉄に届かないよう遮断する方式として説明されています。そして「バリア型防食の場合は、皮膜に疵などの欠陥があると下から赤錆が出ることから、皮膜の品質管理が重要になる。」とされています(日本製鉄の解説資料(PDF))。
バリア型は、膜が完全なうちは鉄に水も酸素も届きませんが、傷が入ると守りの仕組みが失われます。むしろ、傷の部分だけ鉄が露出している状態になるので、そこから錆が進みやすくなります。缶詰の缶がへこんで傷が付いたところから錆が出るのは、この性質によるものです。
つまり、同じ「金属の膜」でも、亜鉛のような犠牲防食型と、錫のようなバリア型では、傷への強さが逆になります。金物を選ぶときは、めっきの金属が何かを確認することで、扱いの注意点も見えてきます。
めっきの守り方は2種類あります。犠牲防食型(亜鉛など)は鉄より先に溶けて鉄の身代わりになるため、小さな傷があっても周りの亜鉛が守り続けます。バリア型(錫など)は水と酸素を遮断する「ふた」なので、傷が入るとその下から赤錆が出ます。ビスやボルトに亜鉛めっきが多いのは、前者の性質を活かすためです。
亜鉛がこれほど多く使われている理由
ビスやボルト、建築金物のめっきに亜鉛が多いのには、2つの理由があります。日本製鉄の資料では、亜鉛が鉄よりも溶けやすく鉄を犠牲防食すること、そして大気中では亜鉛そのものの腐食速度が鉄より小さく、少ない量で長期的に鉄を守れることが挙げられています。
ここがポイントで、「鉄より溶けやすい」と「大気中では鉄よりゆっくり腐食する」は、一見すると矛盾しているように見えます。しかし、前者は鉄と亜鉛が接している状態での関係、後者は空気中での亜鉛そのものの減り方の話です。鉄の身代わりになりつつ、自分自身はゆっくりとしか減らない。この2つがそろっているから、亜鉛は防錆めっきの主役になっているわけです。
やりがちなのは、亜鉛めっきを「錆びない金属」と同じように扱うことです。亜鉛はゆっくりとはいえ減っていく前提の材料で、膜が薄ければそれだけ早く守りの量を使い切ります。だからこそ、前の見出しで見た厚みの違いが、長期的な錆びにくさに効いてくるのです。
実は、めっきは「錆びない膜」ではなく「錆を引き受ける膜」
意外と知られていないけれど、亜鉛めっきの白っぽい粉や、くすんだ表面の変化は、必ずしも「めっきが失敗した」サインではありません。犠牲防食の仕組みからすると、亜鉛が鉄の代わりに反応しているのは、むしろ設計どおりに働いている状態だといえます。
多くの人は「めっき=錆を寄せつけないコーティング」とイメージしがちですが、亜鉛めっきについていえば、錆の反応を鉄から自分の方へ引き受ける膜、と考えた方が実態に近いのです。この見方に立つと、「どれくらいの量の亜鉛が載っているか」、つまり膜厚が寿命を左右するという理屈が自然に理解できます。
注意点として、赤茶色の錆が出てきた場合は話が別です。赤錆は鉄そのものが錆びている状態で、身代わりの亜鉛が使い切られたか、守りが届いていない部分があることを示しています。白っぽい変化と赤錆を見分けて、赤錆が出た金物は交換を検討するのが無難です。
ビス袋の「ユニクロ」「クロメート」は何を意味する?
三価ユニクロ=電気亜鉛めっき+化成皮膜処理
ビスの袋でよく見る「ユニクロ」は、電気亜鉛めっきの仕上げの呼び名です。ねじメーカーの若井産業は、三価ユニクロについて「建築用ねじに広く利用される。」とし、処理の内容を「電気亜鉛めっき後に、六価クロムを含まない溶液で化成皮膜処理を施している。」と説明しています(若井産業の技術資料(PDF))。
つまり、三価ユニクロは2段階の処理です。まず電気メッキで亜鉛の膜を付け、その上に化成皮膜という薄い保護層をつくります。亜鉛の膜だけだと表面が反応しやすいため、化成皮膜でそれを抑える役割があると考えるとわかりやすいでしょう。
やりがちなのは、「ユニクロ」を素材の名前だと思い込むことです。中身は鉄のビスで、表面に電気亜鉛めっきと化成皮膜がのっている、という構造です。ビスを選ぶときは、素材(鉄・ステンレスなど)と表面処理(三価ユニクロなど)を別々に読むのがコツです。
| 種類・方式 | 電気亜鉛めっき+化成皮膜処理(六価クロムを含まない溶液を使用) |
| 防錆の考え方 | 亜鉛による犠牲防食。電気めっきなので薄めっきの側に属する |
| 使われている場面 | 建築用ねじに広く利用される(若井産業の説明) |
| 使い方のコツ・注意 | 呼称・仕様はメーカーにより異なる場合がある。使用場所の適否はメーカーの製品情報で確認する |
クロメートとの違いは「六価クロム」を含むかどうか
三価ユニクロと並んで見かけるのが「クロメート」です。若井産業の表では、クロメートは三価ユニクロに比べて、電気亜鉛めっき後の化成皮膜処理で使う処理液のクロム濃度が高いものとされ、「耐食性は比較的高いが、六価クロムを含有する。」と説明されています(若井産業の技術資料(PDF))。
どちらも土台は電気亜鉛めっきで、違いはその上の化成皮膜の処理液です。三価ユニクロの「三価」は、六価クロムを含まない処理であることを表している、と読むと整理しやすくなります。名前の中に、皮膜の中身のヒントが入っているわけです。
注意したいのは、「耐食性が比較的高い」という一点だけで選ばないことです。若井産業の表自体が、耐食性と六価クロムの含有を並べて書いています。また、同社の資料はあくまで同社の表の区分で、他社では呼称や仕様が異なる場合があります。製品を選ぶ際は、それぞれのメーカーの表記を確認してください。
ダクロは電気めっきではない複合皮膜
ビスやボルトの表面処理には、電気メッキ以外の方法もあります。そのひとつが「ダクロ」です。若井産業の表では、ダクロは亜鉛フレークとクロム酸に浸漬したあと、焼付け処理をした複合皮膜とされ、水素脆化による破損の危険性が極めて低いとされています。
ここで電気メッキとの違いが見えてきます。電気メッキは水溶液中で電流を流すため、あとの見出しで説明する「水素脆性」の原因になることがあります。ダクロは電流で金属を析出させる方法ではないので、この点で性格が異なるわけです。同じように亜鉛の力で鉄を守るとしても、膜のつくり方が違えば注意点も変わります。
やりがちなのは、「亜鉛系なら全部同じ」とまとめてしまうことです。表面処理の名前が違えば、工程も特性も違います。高強度のボルトのように、膜のつくり方が安全性に関わる場面では特に、処理の種類まで確認する習慣をつけておくと安心です。

ステンレスの「パシペート」や「黒染」は、めっきとは別物
ビスの表面処理一覧には、めっきではない処理も並んでいます。若井産業の表では、パシペートは「『不動態化処理』と呼ばれる防錆処理。」とされ、硝酸処理でステンレス表面に不動態皮膜を生成するものと説明されています(若井産業の技術資料(PDF))。別の金属を載せるのではなく、ステンレス自身の表面を整える処理です。
また、黒色の小ねじなどで見かける「黒染」も、めっきとは異なる処理です。ねじメーカーのミカサの資料によると、黒染は苛性ソーダ水溶液に酸化剤を入れて130〜150℃で処理し、できる黒色酸化皮膜の厚さは一般的に1μ〜2μ程度で、多孔質とされています。
「黒いビス=黒いめっき」と思い込むと、防錆性能を見誤りがちです。黒色酸化皮膜は薄く多孔質だとされているので、見た目の仕上げと錆への強さは別に考えましょう。表面処理名がわからない場合は、メーカーの製品情報で処理の種類を確認するのが確実です。
屋外の金物が赤茶色に…めっきの「選び間違い」で起きる失敗
やりがちな失敗:屋内向けの考え方で選んだ金物を雨ざらしに
めっきの選び間違いで多いのが、室内で使うつもりで買った金物を、そのまま屋外やベランダの雨がかかる場所に使ってしまうケースです。棚受けや補強金具を余った分で流用し、気づいたら赤茶色の錆が出てきた、という経験がある人もいるのではないでしょうか。
原因は、使う環境と膜の厚みが合っていないことです。日本製鉄の資料では、電気めっきは屋内で使われる家電製品など薄い方が適するものに、溶融めっきは腐食環境が過酷で長期の防錆が必要なものに、という使い分けが示されています。電気メッキの薄い膜は、雨や湿気に長くさらされる場所では、身代わりになる亜鉛を早く使い切ってしまう可能性があります。
対策は、金物を買う段階で使う場所を決めておくことです。屋外の長期使用が前提なら、溶融亜鉛めっきの製品や、ステンレスなど素材自体の耐食性を活かした製品を候補に入れ、メーカーの製品情報で使用環境の記載を確認しましょう。
状況:室内の棚づくりで余った電気亜鉛めっきの金物を、ベランダのプランター台に流用した。
原因:電気めっきは薄めっきに向く方法で、雨や湿気に長くさらされる環境では亜鉛の「身代わり」が早く尽きやすい。
対策:屋外で長く使うなら、溶融亜鉛めっきやステンレスなど、使用環境に合う製品をメーカーの製品情報で確認して選ぶ。
なぜ起きる?「厚み」と「環境」の掛け算で寿命が決まる
めっきの寿命を考えるとき、厚みだけ、環境だけで判断するのは片手落ちです。亜鉛めっきは犠牲防食で鉄を守るため、膜に含まれる亜鉛の量(厚み)と、亜鉛が減っていく速さ(環境)の組み合わせで、守れる期間が決まると考えるのが筋です。
日本製鉄の資料にあるように、大気中では亜鉛そのものの腐食速度は鉄より小さく、少ない量で長く鉄を守れます。しかし、雨がかかる、水が溜まる、湿気がこもるといった条件が重なると、亜鉛の減りは早まる方向に働きます。電気錫めっきの例が0.4μm程度、溶融めっきが7〜40μmが一般的という厚みの差は、この「持ち時間」の差として表れてきます。
やりがちなのは、「亜鉛めっきだから大丈夫」とひとまとめにすることです。同じ亜鉛でも、電気メッキか溶融めっきかで載っている量が違います。使う場所の厳しさを想像し、それに見合う厚みの処理を選ぶ、という順番で考えるのがコツです。
切る・削る・穴をあける──自分で皮膜を壊していないか
めっき製品をDIYで加工するときにも注意点があります。金物を切断したり、ヤスリで削ったり、追加の穴をあけたりすると、その部分は鉄がむき出しになります。めっきは表面にだけ載っている膜なので、加工した面には守りがない状態になるわけです。
ここで、前の見出しで見た守り方の違いが効いてきます。亜鉛めっきなら、周りに残る亜鉛が犠牲防食で鉄をある程度守る働きを続けます。一方、バリア型のめっきでは、日本製鉄の資料にあるとおり、皮膜に疵などの欠陥があると下から赤錆が出ます。めっきの種類によって、加工後の錆びやすさが違うのです。
やりがちな失敗は、加工面をそのまま屋外で使うことです。切り口や穴の内側は、表面よりも先に錆が出やすい場所になります。加工が必要な場合は、最初から加工後の使用を想定した製品を選ぶか、加工面の防錆処理について製品メーカーの案内を確認しておくと安心です。
パッケージと仕様表の「どこ」を見れば選べるか
金物を選ぶとき、パッケージや仕様表で確認したいのは3点です。素材(鉄・ステンレスなど)、表面処理の名前(三価ユニクロ・クロメート・溶融亜鉛めっき・ダクロなど)、そしてメーカーが想定している使用環境の記載です。
理由は、この記事で見てきたとおり、「何の金属を、どの方法で、どれくらいの厚みで」付けたかで性能が変わるからです。表面処理の名前がわかれば、電気メッキの薄い膜なのか、溶融めっきの厚い膜なのか、それとも電気を使わない複合皮膜なのかが見当がつきます。若井産業のように表面処理の特徴を一覧で公開しているメーカーもあるので、迷ったら一次情報にあたるのが確実です。
注意したいのは、表面処理の呼び名がメーカーごとに違う場合があることです。若井産業の資料でも、表の区分は同社のもので、他社の呼称・仕様は異なる場合があると読むのが妥当です。名前が似ていても中身が違うことがあるので、最終的には購入する製品のメーカー表記で判断してください。
電気メッキのボルトで注意したい「水素脆性」とベーキング
水素脆性とは:めっきの工程で鋼が脆くなる現象
電気メッキには、厚みの問題とは別の注意点があります。それが「水素脆性」です。ねじメーカーのミカサの資料によると、水素脆性とは、水素がめっき処理や酸洗いの時に鋼の中に入り、鋼を脆くして割れの原因になることとされています。
電気メッキは水溶液の中で電流を流すため、その過程で水素が発生することがあります。この水素が鋼の内部に入り込むと、見た目には問題がなくても、鋼が粘り強さを失い、力がかかったときに割れやすくなるわけです。前の見出しで、ダクロについて「水素脆化による破損の危険性が極めて低い」とされていたのは、この現象との対比です。
家でやるDIYで扱うビスや一般的なボルトでは、日常的に意識する場面は多くないかもしれません。しかし、強い力で締め付ける高強度のボルトでは、この現象が安全性に関わってきます。電気メッキが「見た目と防錆の処理」であると同時に、鋼の性質に影響しうる工程でもある、という点は覚えておく価値があります。
ベーキング:200℃前後で加熱して水素を追い出す
水素脆性への対策として行われるのが「ベーキング」です。ミカサの資料では「めっき後できるだけ早く、200℃前後で 2~4 時間程度加熱し水素を放出させます。」と説明されています(ミカサの技術資料(PDF))。
理屈としては、めっき工程で鋼に入り込んだ水素を、加熱によって外へ逃がすというものです。「できるだけ早く」とされているのは、水素が鋼の中に留まっている時間を短くするためと考えられます。ベーキングは、めっきの後工程として製造側で管理されるものです。
ここで大事なのは、ベーキングがあらゆる電気メッキ製品に行われているわけではない点です。次の見出しで見るように、ボルトの強度区分によって扱いが分かれています。家庭で電気メッキの製品を加熱して何かしようとするのではなく、「製造の段階でこういう管理がされている」と知っておくための知識です。
強度区分12.9・10.9・8.8以下で扱いが違う
ミカサの資料では、ボルトの強度区分ごとに、電気メッキとベーキングの扱いが分けて説明されています。強度区分12.9については「強度区分 12.9 のボルトには電気めっきを絶対しないで下さい。」と警告されており、ベーキングをしても遅れ破壊の危険性があるとされています(ミカサの技術資料(PDF))。
強度区分10.9については、水素脆性を除くために必ずベーキングを行うとされています。一方、強度区分8.8以下については「強度区分 8.8 以下のボルトには一般的にはベーキング処理はおこなっていない事が」多いと説明されています(ミカサの技術資料(PDF))。強度が高いボルトほど、水素脆性の影響を受けやすいという考え方です。
また同資料では、ダクロダイズド処理やジオメット処理(ノンクロムダクロ)であれば、強度区分12.9にも処理できるとされています。高強度のボルトで防錆が必要な場合に、電気メッキ以外の処理が選ばれる理由がここにあります。
| 強度区分 | 電気めっきとベーキングの扱い | 補足 |
|---|---|---|
| 12.9 | 電気めっきを絶対しないよう警告 | ベーキングをしても遅れ破壊の危険性がある。ダクロダイズド処理・ジオメット処理なら処理できる |
| 10.9 | 水素脆性除去のため必ずベーキングを行う | めっき後できるだけ早く、200℃前後で2〜4時間程度加熱 |
| 8.8以下 | 一般的にはベーキング処理を行っていないことが多い | — |
DIYで覚えておきたいこと:高強度ボルトに自分でめっきを足さない
水素脆性の話からDIYで覚えておきたいのは、「錆びたボルトを自分でめっきし直して再利用する」「見た目をそろえるために高強度ボルトにめっきを追加する」といった発想を避けることです。めっきの工程は、見た目や防錆だけでなく、鋼そのものの性質に影響しうるからです。
特に強度区分12.9のように、メーカーが電気メッキを避けるよう警告しているボルトでは、表面をきれいにしたつもりが、割れの原因をつくることになりかねません。こうしたボルトの表面処理が必要な場合は、自己判断で処理を加えず、ボルトのメーカーに相談するのが筋です。
家庭のDIYでは、最初から用途に合った表面処理済みの製品を選ぶのがいちばん確実です。錆が出たボルトは手を加えて再利用するより、同じ仕様の新しい製品に交換する、と考えておくと安全側に倒せます。
状況:錆びてしまった高強度ボルトを、再めっきして使い回そうと考える。
原因:電気めっきの工程では水素が鋼に入り、脆くなって割れの原因になることがある(水素脆性)。ミカサの資料では、強度区分12.9には電気めっきをしないよう警告されている。
対策:高強度ボルトに自分でめっきを追加しない。表面処理が必要ならボルトのメーカーに相談し、基本は同じ仕様の新品に交換する。
室内の棚・屋外の柵・単管まわり──場面別に表面処理を選ぶ
室内の家具・棚づくりなら:電気メッキの薄い膜が活きる
室内で使う家具や棚、収納の組み立てでは、三価ユニクロのような電気亜鉛めっき系のビス・金物が選択肢の中心になります。若井産業が三価ユニクロを「建築用ねじに広く利用される」と説明しているように、身近な処理です。
理由は、日本製鉄の資料にある使い分けの考え方です。屋内で使われる家電製品のように、雨にさらされず腐食環境が厳しくない場所では、薄いめっきでも役目を果たしやすい。室内の家具も、同じように考えることができます。電気メッキは膜が薄く均一なので、見た目の仕上がりもそろいやすくなります。
ただし、室内でも洗面所や浴室の近く、結露しやすい窓まわりなど、水や湿気に触れやすい場所は話が別です。「室内だから大丈夫」と一括りにせず、その場所が水に触れる頻度を考えて選び分けましょう。迷うときは、メーカーの製品情報で使用環境の記載を確認するのが確実です。
屋外・雨がかかる場所なら:溶融亜鉛めっきやステンレスを候補に
ウッドデッキまわりやフェンス、屋外の物置の補強など、雨がかかる場所で長く使う金物は、溶融亜鉛めっきの製品やステンレス製品を候補に入れると考えやすくなります。日本製鉄の資料でも、腐食環境が過酷で長期の防錆が必要なものには溶融めっき、と整理されています。
実際に、溶融亜鉛めっきは建築金物でも使われています。日本建設業連合会の資料では、溶融亜鉛めっきを使う製品の例として、建築用ターンバックル(JIS A 5540)や構造用両ねじアンカーボルトセット(JIS B 1220)が挙げられています。長く屋外で使われる構造用の金物に、厚い膜の処理が選ばれていることがわかります。
屋外DIYでは、金物だけでなく木材の選び方も耐久性を左右します。木材の性質については別の記事で整理しています。

注意点として、屋外でも金物の種類によって適した仕様は異なります。製品ごとの対応環境はメーカーの製品情報で確認してください。
単管パイプや見た目を重視する金物の場合
単管パイプやクランプのような屋外で使うことの多い資材も、表面処理の考え方は同じです。素材と表面処理の表記を確認し、使う場所の厳しさに合っているかを見ていきます。単管の接合部の種類と選び方は、こちらの記事で解説しています。

一方、家具の見た目をそろえたい場面では、黒色の小ねじや、ステンレスのパシペート処理品が選ばれることがあります。ここで思い出したいのが、黒染の黒色酸化皮膜は一般的に1μ〜2μ程度で多孔質とされている点です(ミカサの資料)。見た目の色と、錆への強さは別物として考える必要があります。
ステンレスのパシペートは、若井産業の資料にあるとおり、硝酸処理でステンレス表面に不動態皮膜をつくる処理です。別の金属を載せる電気メッキとは仕組みがまったく違うので、「黒い」「銀色」といった色だけで同じ仲間だと判断しないことがコツです。
迷ったときは、この順番で確認する
表面処理の選び方に迷ったら、「使う場所 → 素材 → 表面処理の名前 → 強度区分(ボルトの場合)→ メーカー表記」の順で確認すると、判断がぶれにくくなります。この記事で見てきた知識を、そのまま買い物の手順に落とし込んだものです。
最初に使う場所を決めるのは、それによって必要な膜の厚みや守り方が決まるからです。次に素材と表面処理の名前を見ると、電気メッキの薄い膜か、溶融めっきの厚い膜か、電気を使わない皮膜かがわかります。ボルトの場合はさらに強度区分を確認し、高強度品で電気メッキとの組み合わせに不安があれば、メーカーの技術資料にあたります。
やりがちなのは、価格や見た目から入ってしまうことです。順番を逆にするだけで、選び間違いの多くは防げます。最終的な判断は、購入する製品のメーカー表記を正本にしてください。
屋外で板同士を留めるなら、材質の組み合わせで錆が出るリベットの選び方も確認しておくと安心です。

まとめ
まずは手元にあるビスやボルトの袋を1つ取り出して、表面処理の名前を読んでみてください。それが電気メッキの薄い膜なのか、溶融めっきの厚い膜なのかがわかれば、次に金物を買うとき、使う場所に合った1本を選べるようになります。
※表面処理の呼称・仕様はメーカーにより異なる場合があります。最新情報は各メーカーの公式サイトでご確認ください。

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