ホームセンターの測定工具の棚で、L字の金属定規を手に取って「これ、普通の定規と何が違うんだろう」と迷ったことはありませんか。裏返すと見慣れない間隔の目盛りが並んでいて、どこを読めばいいのかわからない。直角の線を引こうとしても、なぜか少し斜めになってしまう。さしがね(曲尺)は、DIYを始めた人が最初につまずきやすい道具のひとつです。
結論から言うと、さしがねの使い方は「内側を材料の基準面に密着させ、墨さし(鉛筆)の芯の側面を沿わせて線を引く」という基本さえ押さえれば、家でやるDIYの墨付けには十分に使えます。裏側の目盛り(角目・丸目)は、正方形の対角線や丸太の太さから計算せずに寸法を出すための仕組みで、知っておくと道具の見え方が変わります。
この記事では、厚生労働省の技能検定向け資料、科学館の解説、大学の技術教育の論文、メーカー公式の製品情報といった一次情報をもとに、さしがねの名前と構造、目盛りの理屈、直角線や勾配の引き方、切りしろの考え方、そして選び方までを順番に整理します。
・長手・妻手、表目・裏目など、さしがねの各部の名前と役割
・角目(約1.41倍)と丸目(1/π)が何のためにあるのか
・直角線が斜めになる原因と、持ち方・墨さしの角度のコツ
・切りしろの考え方と、JIS B 7534・直角度で見る選び方
さしがねの使い方は長手と妻手の名前から|L字1本で何ができる?

長い方が長手、短い方が妻手。まず呼び名をそろえよう
さしがねの各部には名前があり、使い方の説明はすべてこの名前で語られます。厚生労働省の技能検定向け資料では、さしがねを表裏・内側・外側に目盛りが付いたL字型の金属製の工具と説明したうえで、「長手、短い方を妻手(短手)といい、一般的には長手が 50㎝まで刻まれている。」と整理しています(厚生労働省 技能検定 大工工事作業 資料)。
名前を覚えると何がうれしいかというと、解説書や動画の指示がそのまま理解できるようになることです。たとえば「妻手を材の木口側に向けて」「長手の内側を基準面に当てて」といった説明は、どちらが長手かを取り違えると、まったく逆の当て方になります。
やりがちなのは、L字の内側と外側を区別せずに目盛りを読んでしまうことです。さしがねは内側にも外側にも目盛りがあり、どちらの辺を基準にするかで読み取る位置がずれます。材料に当てる側と読む側を毎回同じにする、というのが最初のコツです。手に取ったら、長手・妻手、内側・外側の4つを一度指でなぞって確認しておくと、作業中に迷いにくくなります。
くの字がちょうど直角に折れているから、直角が引ける
さしがねが「定規」と違うのは、2本の辺が直角に組まれている点です。科学館の解説では、さしがねは多くがステンレス製で、「さしがねのくの字はちょうど直角に折れ曲がっていて、直角を正確にはかることができます。」と説明されています(科学館の解説PDF)。
つまり、片方の辺を材料の基準面にぴったり当てれば、もう片方の辺は自動的にその面に対して直角を向きます。直角を「目で合わせる」のではなく「道具の形で出す」のが、さしがねの仕組みです。
ここで失敗しやすいのは、基準面そのものが曲がっていたり、ささくれがあったりするケースです。道具が直角でも、当てる面がまっすぐでなければ線は狂います。ホームセンターでカットされた板でも、端がわずかに欠けていることはあります。線を引く前に、さしがねを当てる面を手でなでて、引っかかりがないかを確かめておきましょう。直角を出す道具は、まっすぐな基準面があって初めて役に立つ、と覚えておくと失敗が減ります。
長手50cmの一般サイズは、両刃のこぎりとほぼ同じ長さ
さしがねにはいくつかの長さがありますが、厚生労働省の資料にあるとおり、長手に50cmまで目盛りが刻まれたものが標準的なサイズとして扱われています。山口大学の技術教育の論文では、この一般サイズの全長が両刃のこぎりとほぼ同じだと紹介されています(山口大学 学術機関リポジトリ)。
長さの感覚がつかめると、使う場面が想像しやすくなります。棚板の幅に線を引く、板の長さ方向に寸法を取る、といった作業では、長手が長いほど一度に測れる範囲が広がります。一方で、長いさしがねは作業台の上で取り回しにくく、細い材に当てるときは持て余すこともあります。
やりがちなのは、長さだけで選んで、置き場所や作業スペースを考えないことです。狭いベランダや机の上での作業が中心なら、短いタイプの方が扱いやすい場合もあります。サイズの選び方は後半の選び方の見出しで、メーカー公式の仕様を並べて整理します。
長手(ながて)=さしがねの長い方の辺。妻手(つまて)=短い方の辺で、短手とも呼ばれる。表目=表側のミリメートルの目盛り。裏目=裏側の、ミリではない間隔の目盛り(角目・丸目)。墨付け・けがき=切る位置や加工する位置の線を材料に書き込む作業。墨さし=墨付けに使う筆記具で、DIYでは鉛筆が使われることが多い。
規矩術の「矩」はさしがねのこと。大工の計算道具だった
さしがねは単なる定規ではなく、建築の寸法を割り出すための道具として発達してきました。科学館の解説では、建築で寸法をはかりとる技術を規矩術(きくじゅつ)と呼び、「規」は円と円を描くコンパス、「矩」は直角でさしがねを意味すると説明されています。
この背景を知っておくと、裏側に不思議な目盛りがある理由が腑に落ちます。電卓のない時代に、正方形の対角線や丸太の円周といった計算を、目盛りを読むだけで済ませるための工夫が刻まれているわけです。
ただし、家でやるDIYで規矩術のすべてを使いこなす必要はありません。屋根の隅木のような複雑な墨付けは、本職の大工の領域です。棚や箱づくりで使うのは、直角線・平行線・寸法取り・勾配の基本がほとんどです。「裏目は便利な計算表が刻まれている」と理解しておけば十分で、使う場面が来たときに読み方を思い出せれば困りません。
表目と裏目は何が違う?裏側の目盛りがミリではない理由
表はミリ、裏は間隔の違う2種類の目盛り
さしがねを裏返すと、表とは間隔の違う目盛りが並んでいます。科学館の解説では、「さしがねの表側(表目おもてめという)にはミリメートルの目盛りが書かれていますが、裏側(裏目うらめという)には、明らかにミリメートルではない間隔の2種類の目盛りが書かれています」と説明されています(科学館の解説PDF)。
この2種類が角目(かくめ)と丸目(まるめ)です。間隔が長い方が角目、短い方が丸目とされています。どちらも普通の長さを測るためのものではなく、特定の計算を目盛りの読み取りで済ませるためのものです。
家でやるDIYで起こりやすい失敗は、裏目を表目と勘違いして寸法を取ってしまうことです。裏目で測った数字は実際の長さと一致しないため、板を切ったら寸法が足りない、あるいは長すぎる、ということになります。普通の寸法取りは必ず表目で行う、と決めておきましょう。裏目しかない面を見ていると気づいたら、一度さしがねを裏返して表目に戻すのが確実です。
角目は1cmの約1.41倍、正方形の対角線から辺がわかる
角目は、一辺1cmの正方形の対角線の長さ(√2=約1.41cm)を単位にして刻まれた目盛りです。科学館の解説では、「角目は、その長さを2の平方根、つまり1.41…倍した目盛りになっていて、正方形の対角線を角目ではかると、正方形の辺の長さがわかるようになっているのです。」と説明されています。
理屈はこうです。正方形の対角線は、辺の長さの√2倍になります。だから、対角線を「√2倍に引き伸ばした目盛り」で測れば、読み取った数字はそのまま辺の長さになります。三平方の定理の計算を、目盛りが肩代わりしてくれるわけです。
厚生労働省の資料では、角目は「屋根の隅木の墨付けなどに用いる。」とされています(厚生労働省 資料)。家でやるDIYでは、正方形の板や角材の断面に対して、対角線から辺を確かめたいときに役立ちます。ただし、角目の数字を表目と取り違えると寸法が狂うので、角目を使うときは「いま読んでいるのは辺の長さに換算された数字だ」と意識しておくことが大切です。
丸目は1/π、円の直径を測ると円周が読める
丸目は、約3.14cm(π)を単位にした、表目の1/πに対応する目盛りです。科学館の解説では、円の直径を丸目ではかると円周が求まると説明されています。円周は直径×πなので、直径を「πで割った目盛り」で読めば、その数字が円周の長さとして読める、という仕組みです。
厚生労働省の資料では、丸目は丸太の断面などに当てることで、その材料から一辺がどれくらいの柱を取れるかを把握できる、とされています。直径と円周、そして円の中に収まる正方形の大きさという関係を、目盛りで素早く見積もるための道具だったわけです。
家でやるDIYでは、丸棒や円柱形のものに巻く材料の長さを見積もるときに使えます。ただし、丸目で読めるのは直径から割り出した円周で、材料の厚みや重なりしろまでは含まれません。巻き付けるテープや布の長さを決めるときは、丸目で出した数字を目安にしつつ、余裕を持たせて切るようにしましょう。
| 項目 | 表目 | 角目(裏目) | 丸目(裏目) |
|---|---|---|---|
| しくみ | ミリメートルの目盛り | 一辺1cmの正方形の対角線(約1.41cm)単位 | 1/π(約3.14cm)単位 |
| 得意な作業 | 普通の寸法取り・墨付け | 対角線から辺の長さを読む・隅木の墨付け | 直径から円周を読む・丸太から取れる柱の見積もり |
| 注意点 | 内側・外側どちらで読むかをそろえる | 表目と取り違えると寸法が狂う | 厚みや重なりしろは含まれない |

出典:科学館の解説PDF、厚生労働省 技能検定資料をもとに工具・DIYの教科書編集部が整理
実は、DIYなら裏目のない表裏同目の方が迷いにくい
意外と知られていないけれど、さしがねには裏側も表と同じミリ目盛りになった「表裏同目」のタイプがあります。シンワ測定の製品ラインナップでも、裏面に角目を刻んだもの(曲尺角厚 シルバー 50cm 裏面角目 重宝 JIS)と、表裏同目のもの(曲尺平ぴた シルバー 30cm 表裏同目 ストッパー付 JIS)が並んでいます。
裏目は便利な仕組みですが、家でやるDIYで使う場面は限られます。むしろ、さしがねを裏返して使ったときに裏目を読んでしまい、寸法を間違えるリスクの方が身近です。表裏同目なら、どちらの面を上にしても同じ目盛りで読めるので、この取り違えが起こりません。
もちろん、角目・丸目を使いたい人や、大工仕事の墨付けを学びたい人には、裏目つきが向いています。自分の作業で裏目を使うかどうかを考えてから選ぶと、道具選びで遠回りせずに済みます。製品名や裏面の表記に「角目」「表裏同目」と書かれているので、購入前にそこを確認しておきましょう。
角目と丸目は計算の代わりになる|八角形と丸太から取れる柱

正方形の対角線を当てるだけで、辺の長さが読める
角目のいちばん基本的な使い方は、正方形の対角線から辺の長さを読み取ることです。科学館の解説にあるとおり、対角線を角目ではかると、正方形の辺の長さがわかります。
なぜ役に立つかというと、現場では辺よりも対角線の方が測りやすい場面があるからです。たとえば、角材の断面がきちんと正方形になっているかを確かめたいとき、2本の対角線を角目で測って同じ数字になれば、各辺の長さもそろっていると判断する手がかりになります。対角線がずれていれば、どこかが歪んでいる可能性があります。
やりがちな失敗は、長方形の対角線に角目を当ててしまうことです。角目が辺の長さに一致するのは、あくまで正方形の場合です。長方形では対角線の長さは2辺の組み合わせで変わるので、角目の数字はどちらの辺とも一致しません。角目を使うときは、対象が正方形であることを先に確かめておきましょう。
正八角形は角目と表目の組み合わせではかり出せる
角目と表目を組み合わせると、正方形から正八角形の墨付けができます。科学館の解説では、正方形の一辺を角目ではかり、その数字(解説の例では30)を表目で正方形の角から取って印をつけると、正八角形をはかり出せると紹介されています。
この方法が便利なのは、角度を測らずに済むところです。正八角形の頂点の位置を計算で求めるには、√2を含む計算が必要になります。角目はその計算をあらかじめ目盛りに組み込んでいるので、読み替えるだけで頂点の位置が決まります。角材を八角形に面取りして柱やポールをつくる、といった作業で役に立つ考え方です。
注意したいのは、Step1で角目、Step2で表目と、途中で目盛りを切り替える点です。両方とも同じ目盛りで測ってしまうと、八角形の辺がそろいません。手順の途中で「いまはどちらの目盛りか」を声に出して確認するくらいでちょうどいいです。
丸目で円周を読み、巻く材料の長さを見積もる
丸目は、円の直径を当てるだけで円周を読み取るための目盛りです。科学館の解説によれば、直径を丸目ではかった数字が、そのまま円周の長さになります。
理屈は、円周=直径×πという関係です。丸目は表目をπで割った間隔で刻まれているので、同じ直径を丸目で読むと、表目で読むよりπ倍大きな数字が出てきます。それが円周です。巻き尺を巻き付けにくい場所でも、まっすぐな直径さえ当てられれば円周がわかる、というのが利点です。
家でやるDIYでは、丸棒に滑り止めのテープを巻く、円柱形の鉢カバーに板を巻くといった場面で使えます。やりがちなのは、直径を正確に測れていないことです。円の中心を通らない位置で測ると、直径より短い弦の長さを読んでしまい、円周も小さく出ます。さしがねを少しずつずらしながら、いちばん長く読める位置を探してから丸目を読むようにしましょう。
丸太の断面から、取れる角材の大きさを把握する
厚生労働省の資料では、丸目は丸太の断面などに当てることで、その材料から一辺がどれくらいの柱を取れるかを把握できると説明されています(厚生労働省 資料)。
円の中に収まるいちばん大きな正方形は、対角線が円の直径と一致します。つまり、丸太の直径がわかれば、そこから取れる角材の一辺は直径を√2で割った値になります。裏目の目盛りは、こうした円と正方形の関係を素早く見積もるために使われてきました。製材所や大工の現場で、丸太を前にして「この丸太から何寸角が取れるか」を判断するための知恵です。
ただし、家でやるDIYで丸太から角材を取る作業はほとんどありません。ここは「裏目にはこういう使い道がある」という理解にとどめておけば十分です。購入する木材はすでに製材されたものが中心なので、寸法の見方は材料ごとの規格を知っておく方が役立ちます。

直角線がまっすぐ引けないのはなぜ?持ち方と墨さしの角度
人差し指を支点に、さしがねを曲げるように押し当てる
直角線が斜めになる原因の多くは、さしがねが基準面から浮いていることです。山口大学の論文で紹介されている技術科の教科書の記述では、長手または妻手の中央部付近を持ち、人差し指を支点、薬指と小指を作用点として、さしがねを曲げるようにして、さおの内側を材料の基準面に密着させる、と説明されています(山口大学 学術機関リポジトリ)。
この持ち方の理屈は、てこです。人差し指で支え、薬指と小指で反対側を押すことで、さしがねの内側が基準面に押し付けられます。ただ手を添えるだけだと、線を引くときの鉛筆の力でさしがねが押されて、わずかに角度が変わってしまいます。
同じ論文では、初心者がさしがねを使って基準面に直角な線を正確に引くのは難しいとも指摘されています。うまく引けないのは手先が不器用だからではなく、道具の押さえ方を知らないことが原因であることが多い、ということです。線を引く前に、さしがねの内側と材料の基準面の間に隙間がないか、横から目で見て確かめる習慣をつけましょう。
長手は妻手から遠めを持つと、角度がぶれにくい
どこを持つかも、精度に関わります。ファクトシートにまとめた資料では、妻手から遠めの位置で長手を持つと正確にしやすく、初心者は妻手付近を持ちがちだと整理されています。
理由は、押さえる位置と回転の中心の距離です。長手を基準面に当てて妻手に沿って線を引く場合、妻手のそばを持つと、線を引く力に対してさしがねを支える「てこの腕」が短くなります。すると、鉛筆の力でさしがねがわずかに回転しやすくなります。遠めを持てば、同じ力でも回転しにくくなり、角度が安定します。
状況:棚板に切断線を引いたら、反対側の端で線がずれていた。
原因:妻手の付け根付近を持っていたため、鉛筆の力でさしがねが回転し、基準面から浮いていた。
対策:長手を妻手から遠めの位置で持ち、人差し指を支点にして内側を基準面へ押し付ける。線を引いたあと、さしがねを当て直して線と重なるかを確かめる。
やりがちなのは、短い材に当てるときに長手が余るのを嫌がって、つい手元に近い部分を持ってしまうことです。作業台の端から長手がはみ出してもかまわないので、押さえやすい位置を優先しましょう。
墨さしは芯の側面を沿わせ、材料に対して70°〜80°に
線の精度は、さしがねだけでなく墨さし(鉛筆)の当て方でも決まります。厚生労働省の資料では、墨さしで墨付けをするときは、墨さしの芯の側面をさしがねに沿わせ、芯の先端が左右にぶれないように引くと説明されています(厚生労働省 資料)。同資料の図では、墨さしはさしがねに対して直角、材料に対しては70°〜80°の角度で示されています。
芯の側面を沿わせる理由は、線の位置をさしがねの縁に固定するためです。鉛筆を立てすぎたり寝かせすぎたりすると、芯の先端とさしがねの縁の間に距離ができ、線が縁からずれた位置に引かれます。しかも、その距離は鉛筆の傾き次第で変わるので、線の途中で太さや位置が揺れてしまいます。
家でやるDIYでやりがちなのは、鉛筆の芯が丸くなったまま使い続けることです。芯が太いと、線の幅そのものが太くなり、どこを切ればいいのかがあいまいになります。線を引く前に芯を削っておく、という小さな準備が精度を左右します。
引き終わりまで手首の角度を変えず、腕ごと動かす
線を引く動作そのものにもコツがあります。厚生労働省の資料では、引き終わりまで墨さしを持った手の手首の角度を変えず、水平に腕を動かすとよいとされています。
手首だけで線を引こうとすると、引き始めと引き終わりで鉛筆の角度が変わります。鉛筆の角度が変われば、芯の先端の位置も変わるので、線がさしがねの縁から離れたり近づいたりします。腕ごと動かせば、手首の角度が一定に保たれ、芯とさしがねの関係も変わりません。
やりがちなのは、引き終わりに近づくにつれて手首が返り、線の最後だけが外側に流れることです。幅の広い板ほどこの傾向は目立ちます。慣れないうちは、一度で長い線を引こうとせず、さしがねを押さえる手と線を引く手の両方に意識を向けながら、ゆっくり引くのが近道です。引いた線は、さしがねを当て直して、縁と重なっているかを確認しておきましょう。
平行線・等分・45度・勾配|直角以外の線はどう出す?
平行線は「基準面からの距離」を2か所以上でそろえる
平行線を引くときに大切なのは、基準面から同じ距離にある点を2か所以上取ってつなぐ、という考え方です。平行線とは、どこでも基準からの距離が同じ線のことなので、距離が等しい点を複数取れば、それを結んだ線は平行になります。
さしがねを使う場合は、直角線を引く要領でさしがねを基準面に当て、表目で同じ寸法の位置に印をつけます。これを材の両端近くで行い、2つの印を結べば平行線になります。さしがねの直角が出ているので、印をつける方向も基準面に対して直角になり、距離がそろいやすくなります。
やりがちな失敗は、印を1か所だけつけて、そこから目分量で線を伸ばしてしまうことです。目分量の線は、長くなるほど基準面からの距離がずれていきます。印は最低でも2か所、長い材なら途中にも1か所追加すると、線の通りを確かめやすくなります。印と印を結ぶときも、さしがねの縁や長い定規を使い、フリーハンドで引かないようにしましょう。
等分は割り切れる目盛りを斜めに当てる
板の幅を等分したいときは、割り算をするよりも、さしがねを斜めに当てる方法が便利です。幅の両端に、等分したい数で割り切れる目盛りを合わせるように、さしがねを斜めに置きます。すると、割り切れた目盛りの位置に印をつけるだけで、幅を等分した点が取れます。
この方法が成り立つのは、平行線と比の関係があるからです。斜めに当てたさしがねの目盛りを等間隔で区切れば、それを基準面と平行に投影した位置も等間隔になります。幅が中途半端な数値でも、計算せずに等分できるのが利点です。
やりがちなのは、さしがねの端(0の位置)を板の端にきちんと合わせないまま印をつけることです。0の位置がずれると、すべての印が同じだけずれてしまいます。また、印をつけたあとは、その点を通る線を直角に引き直す必要があります。斜めに当てたさしがねの印は「位置」を決めるだけで、線そのものはあらためて直角線として引く、と覚えておきましょう。
45度は長手と妻手で同じ寸法を取る
45°の線は、さしがねの直角を使った直角二等辺三角形の考え方で出せます。長手と妻手の外側で、それぞれ同じ寸法の目盛りを材料の基準面の縁に合わせると、2つの点を結ぶ線は基準面に対して45°になります。
理屈は、直角を挟む2辺の長さが等しい三角形では、残りの2つの角がどちらも45°になる、という性質です。さしがねの直角はすでに出ているので、2辺を同じ長さにそろえるだけで45°が決まります。額縁の留め(角を斜めに合わせる継ぎ方)の墨付けなどで使われる考え方です。
やりがちなのは、長手側と妻手側で、内側の目盛りと外側の目盛りを混ぜて読んでしまうことです。内側と外側では、さしがねの幅の分だけ読み取る位置がずれます。両方とも外側、あるいは両方とも内側、とそろえないと45°になりません。頻繁に45°を引くなら、ストッパーで45°の罫書きができる製品を選ぶのもひとつの方法です。
勾配は底辺150mm・高さ75mmのように寸法で決める
さしがねの使い方で特徴的なのが、勾配を角度ではなく寸法で表すことです。厚生労働省の資料では、たる木や桁の墨付けの例として、さしがねの外側と材料の上端の交点が底辺150mm・高さ75mmの直角三角形になるようにして墨を付ける方法が紹介されています(厚生労働省 資料)。
この方法の利点は、同じ傾きを何度でも正確に再現できることです。分度器で角度を測ると、目盛りの読み取りや当て方で毎回わずかにずれます。一方、長手で底辺の寸法、妻手で高さの寸法を材料の縁に合わせれば、さしがねの直角が三角形の形を固定してくれるので、傾きがそろいます。
家でやるDIYでは、斜めの脚や、傾斜をつけた棚の支えなどで使えます。やりがちなのは、底辺と高さを長手・妻手のどちらで取るかを途中で入れ替えてしまうことです。入れ替えると傾きが逆向きになります。最初に決めた当て方を、すべての部材で守るようにしましょう。
切りしろを忘れると寸法が足りない|けがきの基本
切りしろは、のこぎりの溝の分だけ材料が短くなる見込み
さしがねで正確に線を引いても、切ったあとの寸法が足りないことがあります。原因の多くは、切りしろを見込んでいないことです。山口大学の論文では、「切りしろとは、のこぎり引きで生じる溝の幅分だけ材料が短くなるのを見越した切削時の余裕のことであり」と説明されています(山口大学 学術機関リポジトリ)。
のこぎりで切ると、刃の厚みとアサリ(刃先を左右に振った部分)の幅だけ、材料が削られて溝になります。同じ論文では、のこぎりでのひき溝幅が0.8mm程度と紹介されています。この溝の分は、どちらの部材にも残りません。だから、線のど真ん中を切ると、両側の部材がそれぞれ溝の半分ずつ短くなります。
1枚の板から複数の部材を切り出す場合、切るたびに溝の分が失われるので、積み重なると寸法が合わなくなります。さしがねで寸法を取る段階で、切りしろを含めて印をつけておくのが基本です。
かんなで仕上げるなら、削りしろも足しておく
切ったあとにかんなや紙やすりで仕上げる場合は、削りしろも見込む必要があります。同じ論文では、削りしろを、かんななどで材料を削り取って仕上げるためのけずり幅と説明しています。
のこぎりで切った断面は、どうしても多少の凹凸や斜めのずれが残ります。それを削って平らに整えると、その分だけ材料は短くなります。切りしろだけを見込んで切った部材を削ると、仕上がりが寸法より短くなってしまいます。
状況:棚の側板を2枚同じ寸法で切り出したのに、組み立てたら棚板が入らなかった、あるいは側板の長さがそろわなかった。
原因:寸法線をそのまま切断線にして、線の中央をのこぎりで切ったため、ひき溝の幅だけ部材が短くなった。仕上げに削った分も見込んでいなかった。
対策:さしがねで寸法を取ったら、切りしろ・削りしろを足した位置に切断線を引き、残す部材の外側(捨てる側)を切る。
削りしろを足すかどうかは、仕上げ方で決まります。紙やすりで角を軽く落とす程度なら削る量は小さく、かんなで木口を平らに整えるなら大きくなります。どう仕上げるかを先に決めてから、さしがねで寸法を取る順番にしましょう。
教科書でも切りしろの幅はばらばら。一律の正解はない
切りしろをどれくらい取るかには、一律の正解がありません。山口大学の論文によれば、中学校技術科の教科書の記述でも、「東京書籍では3~5mm、開隆堂は4mm、教育図書は1~2mmとなっている」と、教科書ごとに差があります(山口大学 学術機関リポジトリ)。
幅が違うのは、何を含めて考えるかが違うからです。ひき溝の幅だけを見込むなら小さめで済みますが、切断面の荒れを削って仕上げる分まで含めると大きくなります。のこぎりの種類や、切る人の慣れによっても必要な余裕は変わります。
家でやるDIYでは、まず自分の使うのこぎりで端材を切ってみて、ひき溝の幅や切断面の荒れ具合を確かめるのが確実です。そのうえで、仕上げに削るかどうかを決め、自分の切りしろを決めておくと、毎回迷わずに寸法を取れます。のこぎりの刃の状態によっても切れ方は変わるので、手入れの状態もあわせて見ておきましょう。

線のどちら側を切るかを、印で決めておく
切りしろを見込むときにもうひとつ大切なのが、線のどちら側にのこぎりを入れるかです。線を引いたら、捨てる側に印(斜線やバツ印)をつけておくと、切るときに迷いません。
理屈はシンプルで、のこぎりのひき溝を捨てる側に作れば、残す部材は線の位置で寸法が決まります。逆に残す側に溝を作ると、その分だけ部材が短くなります。線の上をなぞるように切ると、溝の半分が残す側に食い込みます。
やりがちなのは、複数の部材を1枚の板から取るときに、隣り合う部材の線を1本で済ませてしまうことです。1本の線を両方の部材の境界にすると、どちらかが必ず溝の分だけ短くなります。部材ごとに線を2本引き、間に切りしろを取っておくと、それぞれの寸法を守れます。さしがねで寸法を取るときは「線を引く」と同時に「どちらを捨てるか」を決める、とセットで考えるのが基本です。木組みの継手や仕口のように精度が求められる加工ほど、この考え方が効いてきます。

30cmと50cmどっちを選ぶ?JIS B 7534と直角度で見る選び方
JIS B 7534は呼び寸法250mm〜500mmの金属製曲尺の規格
さしがねには日本産業規格があり、JIS B 7534:2005(曲尺)として定められています。規格の英文概要では、長手と短手が直角をなす金属製の曲尺で、呼び寸法が250mm〜500mmのものを対象とし、JIS B 7534:1987を置き換えた規格だとされています。
規格に適合した製品には、製品名や本体にJISの表示があることが多く、シンワ測定の製品名にも「JIS」と入ったものがあります。規格が定めているのは、長さの目盛りや直角といった基本的な精度で、表示があれば一定の基準を満たしている目安になります。
ただし、規格本文は有料で、細かな許容値をここで一律に紹介することはできません。個別の製品の精度は、メーカー公式の製品ページに書かれている直角度や長さ許容差で確認するのが確実です。購入前に、JISの表示と、メーカーが公表している精度の両方を見ておきましょう。
直角度100mmにつき0.1mm以下、長さ許容差は製品で違う
さしがねの精度を見るときの手がかりが、直角度と長さ許容差です。シンワ測定の製品ページでは、比較した3製品とも直角度が100mmにつき0.1mm以下と記載されています。一方、長さ許容差は製品によって異なり、60×30cmの中金普及型は±0.5mmとされています。
| 項目 | 曲尺角厚 50cm 裏面角目(品番10373) | 曲尺平ぴた 30cm 表裏同目(品番12438) | 曲尺中金普及型 60×30cm(品番63410) |
|---|---|---|---|
| 寸法 | 520.00(短枝260)×15.00×1.40mm | 320×177×14mm | 630(長枝)×300(短枝)×2.0mm |
| 重量 | 91g | 72g | 430g |
| 目盛り・特徴 | 裏面に角目・ホゾ表示 | 長枝30cm・短枝15cm/10cm 表裏同目、ストッパーで45°の罫書き | 表裏同目 |
| 直角度 | 100mmにつき0.1mm以下 | 100mmにつき0.1mm以下 | 100mmにつき0.1mm以下 |
| 長さ許容差 | ±0.2mm | ±0.2mm | ±0.5mm |
| 本体価格(税抜) | 6,100円 | 4,580円 | 10,120円 |
出典:品番10373/品番12438/品番63410(シンワ測定 公式製品ページ)。優劣ではなく仕様の違いを並べたもの。
直角度の「100mmにつき0.1mm以下」は、直角からのずれが、長さに対してその割合以内に収まるという意味です。長手が長いほど、先端でのずれの許容幅も大きくなる点は覚えておきましょう。長さ許容差が製品で違うのは、用途やつくりの違いによるものと考えられます。数字が小さいほど寸法の誤差は小さくなりますが、家でやるDIYの多くの作業では、どれもJISを目安にした精度で使えます。
作業する人別、さしがねの選び分け
どのさしがねが合うかは、作る物と作業する場所で変わります。比較表の3製品はあくまで仕様の違いを並べたもので、どれが上ということではありません。
机やベランダで小物や箱をつくる人は、30cmクラスの扱いやすさが合います。シンワ測定の曲尺平ぴた(30cm 表裏同目)は重量72gで、表裏同目なので裏目の取り違えも起こりません。ストッパーで45°の罫書きもできる仕様です。
棚や収納家具など、幅の広い板を扱う人は、長手50cmクラスが基本になります。裏目を学んでみたい人なら、裏面に角目がある曲尺角厚(50cm 裏面角目)のようなタイプが選択肢になります。
大きな部材や合板を一度に測りたい人は、長枝630・短枝300の中金普及型のような大型が候補ですが、重量は430gあり、取り回しは重くなります。厚み2.0mmと剛性はありますが、長いから便利とは限りません。
押さえておきたいのは、長いさしがねほど直角のずれの影響が先端で大きく出るという点です。自分の作業で必要な長さを見極めて選ぶのが、遠回りしないコツです。
選ぶ順番は「作業で必要な長さ」→「裏目を使うかどうか(表裏同目か角目つきか)」→「JISの表示とメーカー公表の直角度・長さ許容差」。価格や重さは、その後で比べると決めやすくなります。
直角の狂いは裏返して確かめ、落下と曲げを避けて保管する
さしがねは丈夫な金属製ですが、落としたり、重い物の下敷きにしたりすると、直角が狂うことがあります。山口大学の論文では、学校教員向けに、さしがねの精度確認と修正方法をまとめたマニュアルが紹介されています。それだけ、使っているうちに狂うことがある道具だということです。
手軽な確かめ方は、まっすぐな基準面に長手を当てて直角線を引き、さしがねを裏返して同じ線に合わせてみることです。直角が正しければ線と縁はぴったり重なり、狂っていれば先端に向かって隙間が開きます。裏返すとずれが2倍になって見えるので、小さな狂いにも気づきやすくなります。狂いが見つかったら、無理に曲げ直そうとせず、精度が必要な作業には使わない、あるいは新しいものに替えることも考えましょう。
保管するときは、工具箱の中で他の工具の下敷きにならない場所に置くか、壁に吊るしておくと曲げを防げます。使ったあとは木くずや汚れを拭き取っておくと、目盛りが読みやすい状態を保てます。下地探しや単管パイプなど、ほかの手工具とあわせて置き場所を決めておくと、出し入れのたびに曲げる心配が減ります。
まとめ
さしがねは、直角が道具の形として組み込まれた、DIYの墨付けの土台になる道具です。最初の一歩として、手元の端材に直角線を1本引き、さしがねを裏返して同じ線に重なるかを確かめてみてください。線がずれていれば持ち方を、重なっていれば次は切りしろを含めた寸法取りを練習すると、切ったあとに寸法が合う感覚がつかめてきます。
※製品の価格・仕様は記事作成時点のメーカー公式情報にもとづきます。最新情報は公式サイトでご確認ください。

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