棚や箱を作ろうとDIYの手順を調べると、材料に線を引く場面でたいてい登場するのが、L字に曲がった金属の定規です。名前は『さしがね』。ただ、裏返すと見慣れない目盛りが並んでいたり、売り場の札に曲尺や指矩と書かれていたりして、普通の定規と何が違うのか分かりにくい道具でもあります。
結論から言うと、さしがねは長さを測る、材料に線を引く(けがき・墨付け)、直角を確かめる、という3つの役目をL字の形ひとつでこなす道具です。厚生労働省の大工工事の技能資料でもL字型の金属製の工具として紹介され、墨付けの基本道具に位置づけられています。形が単純なぶん、当て方と目盛りの読み方を知っているかどうかで、線の正確さに差が出ます。
この記事では、各部の名前と目盛りの付き方、裏に刻まれた角目・丸目の理屈、直角線の引き方と切りしろの考え方、勾配の出し方、そしてJIS B 7534が定める精度と選び方までを、公的資料・辞典・規格の範囲で順番に解説します。
・さしがねの正体と、長手・妻手など各部の呼び名
・表目と裏目(角目・丸目)がそれぞれ何を読む目盛りか
・直角の線をずれずに引くための当て方と、切りしろの考え方
・JIS B 7534が定める許容差・直角度と、選ぶときに見る表示
さしがねとは?L字1本で測る・引く・直角を確かめる道具の正体

長い腕は長手、短い腕は妻手と呼ばれる
さしがねは、長さの違う2本の腕が直角につながったL字の金属定規です。長い方の腕を長手(ながて)、短い方を妻手(つまて)と呼びます。厚生労働省の大工工事の技能資料には、「さしがねの長い方を長手、短い方を妻手(短手)といい、一般的には長手が 50㎝まで刻まれている。」と書かれています。
この呼び名を覚えておくと、手順書が読みやすくなります。墨付けの説明は『妻手を材料の端に当てて、長手の外側で線を引く』のように、どちらの腕をどこに当てるかで書かれているからです。呼び名があいまいなまま読むと、短い腕で長い線を引こうとして定規が安定しない、という失敗につながります。
妻手は資料によって短手と書かれることもありますが、指しているのは同じ短い腕です。手に取ったら、まず長手と妻手それぞれの目盛りがどこから始まっているかを目で確かめておくと、測り間違いを減らせます。
曲尺・差金・指矩…呼び名が多いのは書き方と単位の歴史のせい
さしがねには、差金・指矩・指金・曲がり金・かねざし・曲尺といった別名や表記が辞典に並んでいます。どれも同じL字の定規を指していて、地域や時代によって書き方が分かれてきた道具だと考えると整理しやすいです。コトバンクの辞典には「差金(さしがね)とも。L字形の金属性のものさし」とあります。
意外と誤解されやすいのが曲尺という字です。曲がった形だから曲尺なのかと思いがちですが、同じ辞典では「尺目盛のものさし。曲尺と書くが、形状には無関係で、尺貫法の正規の尺の単位で目盛られたものさしをいう」と説明されています。読み方は『かねじゃく』が基本です。
さらに、メートル法の目盛りを刻んだ製品が増えたことで、読み方にも変化がありました。辞典には「近年、メートル法によるものが作られるようになり、金属製の角度つきのものさしを曲尺と書いて、きょくしゃくと呼ぶこともある」とあります。売り場や通販で探すときは、さしがね・曲尺のどちらの名前でも同じ道具が見つかります。
長手(ながて)=さしがねの長い方の腕。妻手(つまて)=短い方の腕で、短手とも書く。墨付け・けがき=切ったり削ったりする位置を材料に線で描き込む作業。表目・裏目=表側の通常の目盛りと、裏側に刻まれる角目・丸目などの目盛り(裏目の有無は製品による)。
役目は3つ。測る・けがく・直角を見る
さしがねの役目は、長さの測定、けがき(墨付け)、直角の確認の3つです。ただの直線定規でも長さは測れますが、L字であることがさしがねの強みです。妻手を材料のまっすぐな辺に押し当てると、長手はその辺に対して自動的に直角の向きになります。だから長手に沿って線を引くだけで、端に直角な線が描けるわけです。
この作業の重みについて、厚生労働省の資料は「材料に加工する部分を正確に描き込む墨付けは、基本的かつ重要な技能である。」と述べています。線がずれれば、どんなに丁寧に切っても部材はずれたまま仕上がるからです。
家のDIYでありがちなのは、普通の直線定規を目分量で斜めに置き、端に直角なつもりの線を引いてしまうことです。棚板の両端をこの線で切ると、板の左右で長さが違い、組み立てたときに隙間やガタつきが出ます。直角が必要な線は、L字の当て方で角度を決めてから引く。この習慣が、さしがねを持つ一番の意味です。

表と裏、内側と外側。目盛りが刻まれた位置にはわけがある
目盛りは表裏・内側・外側にあり、当て方を変えずに読める
さしがねの目盛りは、表と裏、さらにL字の内側の縁と外側の縁に付いています。1本の定規にこれだけ目盛りがあるのは、材料への当て方を変えずに、そのとき使う縁で寸法を読めるようにするためと考えると理解しやすいです。
たとえば厚生労働省の資料では、線は長手の外側で引くと説明されています。外側の縁に目盛りがあれば、線を引く縁そのもので寸法を合わせられ、目盛りの位置と線の位置がずれません。一方、L字の内側に材料の角を抱え込むように当てる場面では、内側の縁の目盛りの方が読みやすくなります。
やりがちな失敗は、外側の縁で線を引くのに内側の目盛りで寸法を取ってしまうことです。腕には幅があるので、読む縁と引く縁が違えば、その幅のぶんだけ線の位置がずれます。目盛りを読む縁と線を引く縁は同じにする、と決めておくと迷いません。手に取ったら、表裏・内外のどこにどんな目盛りがあるかを一度確かめておきましょう。
一般的な大きさは長手50cm・妻手25cm
大きさの目安は長手50cmです。厚生労働省の資料に、一般的には長手が50cmまで刻まれていると書かれています。妻手は、辞典では長手の半分程度とされ、メーカーのカタログでも長手(長枝)の外目盛50cmの製品は妻手(短枝)の外目盛が25cmになっています。山口大学の教育実践の報告には、長手50cmの一般サイズのさしがねは全長が両刃のこぎりとほぼ同じという記述もあり、大工道具の中で扱いやすい長さに収まっていることがうかがえます(山口大学 学術機関リポジトリ)。
長手が50cmあれば、棚板や箱の側板など家のDIYで扱う板の幅には、多くの場合1回の当て方で届きます。反対に、長手より長い寸法を測ろうとさしがねを何度もずらして継ぎ足すと、ずらすたびに誤差が積み重なります。長い距離はメジャーで測って印を付け、さしがねは直角の線を引く役に回す、と道具の役割を分けるのが理屈に合った使い方です。
購入するときは、長手・妻手それぞれの長さと、目盛りがどこまで刻まれているかを製品表示で確認しておきましょう。
尺目盛とメートル目盛。1尺は約30.3cm
さしがねにはもともと尺貫法の目盛りが刻まれていました。1尺は約30.3cmで、辞典は曲尺を尺の単位で目盛られたものさしと説明しています。近年はメートル法の目盛りの製品も作られていて、メーカーのカタログには尺相当目盛とメートル目盛を併用する製品も載っています。
この違いが効いてくるのは、図面や手順書の単位と目盛りの単位が合わないときです。DIYの手順や木材の寸法表示はmmで書かれることがほとんどなので、尺目盛を基準にした製品で読むと、毎回の換算が必要になり、読み違いの原因になります。とくに表と裏で単位の違う目盛りが刻まれた製品では、裏返したことに気づかずに別の目盛りで寸法を取る失敗が起こりがちです。
目盛りの種類は製品ごとに違うので、パッケージやカタログの目盛り表示(記号表など)で、どの面にどの単位が刻まれているかを確認してから選ぶのが確実です。
裏に刻まれた角目と丸目は何のため?√2と円周率でできた目盛り

角目は表目の約1.414倍。丸太から取れる角材の幅を直読する
製品によっては、さしがねの裏に間隔の違う目盛りが刻まれています。その代表が角目(かどめ)で、正規の目盛りの約1.414倍、つまり√2倍の間隔で刻まれています。辞典では「これを角目(かどめ)といい、この目盛を原木の直径に当てれば、そこから取れる角材の幅を直読することができる」と説明されています。
なぜ√2なのかは、丸の中に収まる正方形を思い浮かべると分かります。丸太の断面いっぱいに正方形の角材を取ると、正方形の対角線がちょうど丸太の直径になります。正方形の対角線は一辺の√2倍なので、一辺は直径を√2で割った長さです。角目は1目盛りが√2倍に引き伸ばされているので、直径に当てて読んだ数字が、そのまま割り算を済ませた角材の幅になるわけです。
注意したいのは、表目と同じ感覚で角目を読んで寸法を取ってしまう失敗です。間隔の違う目盛りなので、表目の寸法としては使えません。裏返して使うときは、刻まれている文字や記号で角目かどうかを確かめてから読みましょう。
丸目は表目を円周率で割った目盛り。直径から周囲の長さがわかる
もう一つの裏目が丸目です。丸目は正規の目盛りを円周率で割った間隔、つまり1/πの細かさで刻まれています。辞典では「この目盛を丸目といい、丸材の直径に当てれば、その丸材の周囲の長さを知ることができる」と説明されています。
理屈は角目と同じで、計算を目盛りの間隔に置き換えています。円の周囲の長さは直径に円周率を掛けたものです。丸目は1目盛りが1/πの長さなので、同じ直径に当てると、表目で読むより円周率倍だけ大きい数字が読み取れます。その数字が周囲の長さです。丸材にメジャーを巻き付けなくても、直径に当てるだけで周囲の長さが分かる、という仕組みです。
丸棒の周りにテープや布を巻く長さを知りたい、といった場面で考え方は役立ちます。ただし角目と同じく、丸目で読んだ数字を通常の寸法として材料に写すと、まったく違う長さになります。丸目の有無や刻まれている面は製品ごとに違うので、メーカーの目盛り表示で確認してから使ってください。
| 項目 | 表目(通常の目盛り) | 角目 | 丸目 |
|---|---|---|---|
| 目盛りの間隔 | 正規の目盛り(尺またはメートル) | 正規目盛の約1.414倍(√2倍) | 正規目盛を円周率で割った間隔(1/π) |
| 当てるもの | 材料の長さ・幅 | 原木(丸太)の直径 | 丸材の直径 |
| 読み取れること | その部分の長さ | 取れる角材の幅 | 丸材の周囲の長さ |
| 注意点 | 尺目盛かメートル目盛かを確認 | 製品により有無が異なる | 製品により有無が異なる |
出典:コトバンク「曲尺」(世界大百科事典ほか)、厚生労働省 大工工事作業の技能資料をもとに編集部で整理
裏目の用途は資料によって説明が分かれる
角目・丸目の用途は、資料によって説明の仕方が異なる点にも触れておきます。この記事では辞典(百科事典)の説明を採用していますが、厚生労働省の大工工事の資料では、角目を屋根の隅木の墨付けに使う目盛り、丸目を「丸太の断面等に当てることによって、その材料から一辺がどれくらいの大きさの柱を取ることができるか把握する」目盛りと説明しています。ただ、丸太から取れる柱(角材)の一辺を読むのは辞典やJISの定義では角目の使い方で、同じ資料が丸目を「1/π(約 3.14㎝)」と書いている点も、1/π(約0.32cm)と食い違っています。資料内で記述が整合していないため、角目は√2倍、丸目は1/π倍というJIS B 7534の定義に合う辞典の説明を基準にしてください。同じ資料には「裏面には以下のような目盛りが刻まれている場合がある。」とあり、そもそも裏目が刻まれているかどうか自体が製品次第だと分かります。
なお、角目には屋根の隅木の墨付けに使うといった応用もあります。ここで大事なのは、間隔の違う目盛りだと知ったうえで、表目と取り違えないことです。
裏目つきの製品を使うときは、刻印の文字(角・丸など)と、メーカーのカタログや取扱いの表記で、その目盛りが何のためのものかを確認してから使いましょう。
実は、裏目は掛け算と割り算を目盛りに刻んだ早見表
裏目というと職人の奥義のような印象を持たれがちですが、実は中身は√2と円周率の掛け算・割り算を、目盛りの間隔に置き換えた早見表です。電卓のない時代に、丸太の前で計算せずに答えを読めるようにした工夫だと考えると、仕組みがすっと腑に落ちます。
そう考えると、家のDIYでの付き合い方も見えてきます。製材された板や角材を買って棚や箱を作る作業では、丸太の直径から角材の幅を割り出す場面はまずありません。必要なのは表目での寸法取りと、直角の線引きです。裏目つきの製品を選ばないと困る、ということは少ないでしょう。
一方で、裏目の存在を知らないことが失敗につながる場面はあります。裏返しに持ったまま角目で寸法を取り、部材が長すぎたり短すぎたりする失敗です。裏目は使いこなすより先に、表目と見分けられるようにしておく。家のDIYでは、それが一番実用的な付き合い方です。
直角の線はどう引く?妻手を当てて長手の外側でなぞる基本
妻手を材料の端に当て、長手の外側で線を引く
直角の線を引く基本は、厚生労働省の資料に簡潔に書かれています。「妻手を材料の端に合わせ、長手の真ん中あたりを持ち、長手の外側で線を引く。直角に引くためには、長手を材料にきちんと密着させる。」
この手順がなぜ直角になるのか。妻手を材料のまっすぐな辺に当てると、妻手と直角につながった長手は、その辺に対して直角の向きに固定されます。あとは長手の縁に沿って鉛筆を動かせば、辺に直角な線が写し取られます。さしがねは角度を測っているのではなく、自分のL字の直角を材料に転写しているわけです。
前提として、妻手を当てる材料の辺がまっすぐであることが必要です。欠けや反りのある辺に当てると、直角の基準そのものが傾き、線も傾きます。最初に材料のどの辺を基準面にするかを決め、その辺に妻手を当てる。この順番を守るだけで、線の精度は安定します。手順をさらに詳しく知りたい場合は、使い方を掘り下げた記事も参考にしてください。

ホームセンターの測定工具の棚で、L字の金属定規を手に取って「これ、普通の定規と何が違うんだろう」と迷ったことはありませんか。裏返すと見慣れない間隔の目盛りが並ん…
指を支点に、曲げるようにして内側を基準面に密着させる
当てたつもりでも、さしがねは押さえ方しだいで材料から浮いたり、わずかに回ったりします。山口大学の教育実践の報告では、長手または妻手の中央部付近を持ち、人差し指を支点にして薬指と小指でさしがねを曲げるようにしながら、さおの内側を材料の基準面に密着させる持ち方が説明されています(山口大学 学術機関リポジトリ)。
この持ち方の理屈は、てこの考え方です。人差し指を支点にして指先側に力をかけると、さしがねの内側の縁が基準面に押し付けられる向きの力が生まれます。ただ上から押さえるだけでは、鉛筆を動かした拍子に妻手が辺から離れてしまいますが、基準面へ押し付ける力が常にかかっていれば、当たりが外れにくくなります。
押さえる位置が端に寄りすぎると、反対側の端が材料から浮いて回りやすくなります。持つのは腕の真ん中あたり。線を引き終わるまで基準面への押し付けを緩めないことが、直角を保つコツです。
鉛筆は芯の側面を沿わせ、手首の角度を変えない
さしがねの当て方が正しくても、鉛筆の動かし方で線はずれます。厚生労働省の資料には「墨さし(鉛筆)を用いて墨付けをするときは、墨さしの芯の側面をさしがねに沿わせ、芯の先端が左右にぶれないように引く。」とあり、手首の角度を変えずに腕を水平に動かすことも示されています。
理由は、線が描かれるのが芯の先端だからです。鉛筆を寝かせたり立てたりすると、芯の先端とさしがねの縁との距離が変わり、線が縁から離れたり近づいたりします。書き始めは縁に沿っていても、手首をひねりながら引くと、線の終わりで縁から離れる、ということが起こります。
ありがちなのは、引き始めでは鉛筆を傾け、引き終わりで立ててしまうパターンです。線の始まりと終わりで位置がずれ、直角に当てたはずの線がわずかに斜めになります。鉛筆の角度は最初に決めたら変えない。腕ごと動かすつもりで引くと、芯の先端がぶれにくくなります。
線が斜めになる失敗は、浮き・ぶれ・基準面の3つから
直角の線引きは、見た目ほど簡単ではありません。山口大学の報告には、さしがねについて「初心者がこれを使って基準面に直角な線を正確に引くことは難しい」という記述があります。難しさの原因は、ここまでの話を振り返ると3つに分けられます。
1つ目は、さしがねの浮きです。妻手が基準面から離れたり、長手が材料から浮いたりすると、L字の直角が材料に正しく写りません。2つ目は、鉛筆のぶれです。手首の角度が変わると、芯の先端の位置が線の途中で動きます。3つ目は、基準面そのものの問題です。欠けや反りのある辺に当てれば、正しく当てても線は傾きます。
線が斜めになったときは、この3つを順に疑うと原因にたどり着きやすくなります。線を引いたら、さしがねを外す前に、線と長手の縁がぴったり沿っているかを目で確かめる習慣もつけておきましょう。
さしがねを上から押さえるだけだと、鉛筆を動かした力で妻手が基準面から離れ、L字がわずかに回ります。その状態で引いた線で切ると、部材の端が斜めになり、組み立てたときに隙間が出ます。原因は基準面への押し付け不足。対策は、人差し指を支点に内側を基準面へ押し付けたまま、線を引き終えることです。
線どおりに切ったのに短い?けがきの前に決める切りしろと削りしろ
切りしろは、のこぎりの溝の分だけ材料が短くなる見込み
さしがねで正確な線を引けても、線の真上をのこぎりで切ると、部材は狙った寸法より短くなります。のこぎりの刃は厚みがあり、切った跡には溝ができて、その分の木がくずとして消えるからです。この目減りを見込んでおく余裕が切りしろです。山口大学の報告では「切りしろとは、のこぎり引きで生じる溝の幅分だけ材料が短くなるのを見越した切削時の余裕のことであり」と説明されています。
同じ報告には、のこぎりのひき溝の幅が0.8mm程度という記述もあります。1回の切断なら小さく見えますが、1枚の板から何枚も部材を切り出すと、溝の数だけ目減りが重なり、最後の1枚が足りなくなることがあります。
つまり、けがきの段階で切りしろを決めておかないと、さしがねでいくら正確に線を引いても、仕上がり寸法は合いません。線を引く前に、どちら側に溝を作るかまで決めておくのが手順です。
削りしろは、かんなで仕上げるための余裕
切りしろとあわせて覚えておきたいのが削りしろです。のこぎりで切った面はざらついたり、わずかに傾いたりするので、かんななどで削って仕上げることがあります。そのとき削り取る幅をあらかじめ確保しておくのが削りしろです。
山口大学の報告では、さしがねを使ったけがきについて、切りしろ・削りしろを「あらかじめこれを含めておくことが基本となる」と書かれています。つまり、仕上がりの線だけでなく、その外側に削る分と切る分を足した位置に、最初の線を引くということです。
家のDIYでは、かんな仕上げをせずに、切りっぱなしの面のまま組み立てることも多いでしょう。その場合は削りしろを取らずに、切りしろだけを考えれば足ります。ただ、切り口を整える予定があるなら削りしろも必要です。仕上げ方法を決めてから線を引く、という順番を意識しておきましょう。
教科書でも幅は3〜5mm・4mm・1〜2mmと分かれる
では、切りしろ・削りしろはどれくらい取ればよいのか。山口大学の報告は、中学校の技術の教科書を比べ、「東京書籍では3~5mm、開隆堂は4mm、教育図書は1~2mmとなっている」と紹介しています。教科書の間でもこれだけ幅があるということは、唯一の正解がある数字ではないということです。
幅が分かれる理由は、使うのこぎりの刃の厚み、切り口をどう仕上げるか、作業する人の腕前によって、必要な余裕が変わるからだと考えられます。削って仕上げるなら広めに、切りっぱなしなら溝の幅を見込む程度に、と仕上げ方と合わせて考えるのが筋です。
実際の作業では、仕上がり寸法の線を先に引き、そこから捨てる側に切りしろの線を足しておくと、どちらが残す側かが分かりやすくなります。捨てる側に×印を付けておくのも、取り違えを防ぐ手です。
仕上がり寸法の線を1本だけ引き、その真上にのこぎりを入れると、溝の幅のぶんだけ部材が短くなります。棚の側板なら左右で高さが合わず、棚板が傾く原因になります。原因は切りしろを含めずにけがきをしたこと。対策は、線の捨てる側に溝ができるように刃を入れるか、けがきの段階で切りしろを足した位置に線を引くことです。
勾配もL字1本で出せる。底辺と高さで傾きを決める考え方
屋根墨の例:底辺150mm・高さ75mmの直角三角形を作る
さしがねは直角だけでなく、斜めの線、つまり勾配を引くことにも使われます。厚生労働省の大工工事の資料には、屋根の墨付けの例として、材料の上端とさしがねの外側の交点が、底辺150mm・高さ75mmの直角三角形になるようにさしがねを当てて墨を付ける方法が紹介されています(厚生労働省 大工工事作業の技能資料)。
仕組みはこうです。長手の目盛りの150mmの位置と、妻手の目盛りの75mmの位置を、それぞれ材料の上端に合わせてさしがねを置きます。すると、さしがねの直角の角と材料の上端とで、底辺と高さが決まった直角三角形ができます。このときさしがねの縁に沿って線を引けば、その三角形の傾きがそのまま材料に写ります。
この例では高さが底辺の半分なので、ゆるやかな傾きの線になります。読む目盛りを変えれば、別の傾きも同じ手順で作れます。目盛りを読み違えると傾きがまるごと変わるので、2つの目盛りを合わせたらもう一度読み直してから線を引きましょう。
勾配は角度ではなく、長手と妻手の目盛り2か所の組み合わせで決めます。同じ2つの目盛りを材料の上端に合わせれば、何本でも同じ傾きの線を引けます。分度器がなくても傾きを再現できるのは、さしがねが直角三角形の定規として働くからです。
角度ではなく長さで傾きを決める理由
大工の墨付けで傾きを角度ではなく底辺と高さの長さで表すのには、理屈があります。長さなら、さしがねの目盛りでそのまま材料上に再現できるからです。角度で指定されると分度器が必要になりますが、さしがねなら手元の1本で済みます。
もう一つの利点は、同じ傾きを何度でも正確に繰り返せることです。目盛り2か所を合わせるだけなので、部材を何本も同じ傾きで切りそろえる場面で、1本ごとのばらつきを抑えられます。小さな分度器で角度を読む方法では、読み取りのわずかな差がそのまま線のずれになりやすいのと対照的です。
ただし、長さで傾きを作る方法にも注意点があります。目盛りを合わせる位置は材料の上端です。上端に欠けや丸みがあると、目盛りを正しく合わせられず、傾きがずれます。基準にする辺がまっすぐかどうかを、直角線のときと同じように最初に確かめておきましょう。
家のDIYで応用する場面と、扱わない作業の線引き
屋根墨はあくまで大工の墨付けの例ですが、底辺と高さで傾きを作る考え方は、家のDIYでも応用できます。たとえば、棚の脚の端を斜めに切りそろえたいとき、同じ傾きの部材を複数作りたいときに、目盛り2か所の組み合わせで線を引けば、すべての部材を同じ傾きにそろえやすくなります。
やりがちな失敗は、1本目は目盛りを合わせて線を引いたのに、2本目以降は1本目の部材を見ながら目分量で線を引いてしまうことです。少しずつ傾きがずれ、組み立てたときにガタつきが出ます。何本作る場合でも、毎回同じ目盛りに合わせて引き直すのが確実です。
なお、ここで紹介したのは墨付けの考え方までです。屋根の勾配に関わる工事そのものは、この記事では扱いません。高所の作業や屋根まわりは、専門の業者に相談する領域だと考えてください。
曲尺の選び方は精度表示から。JIS B 7534が定める許容差と直角度
JISでは金属製角度直尺、呼び寸法は250〜500mm
さしがねには日本産業規格があります。規格番号はJIS B 7534:2005で、正式な名称は「金属製角度直尺」です(「曲尺」という語は規格名に入っていません)。適用範囲は、長枝と短枝とが90°を構成している金属製の角度直尺で、呼び寸法が250〜500mmのもの(呼び寸法は250・300・450・500mm)とされています。長枝・短枝は、この記事でいう長手・妻手にあたります。
規格があるということは、長さや直角の精度に一定の基準が設けられているということです。目盛りが合っているか、直角が正しいかは、見た目だけでは判断しにくい性能です。だからこそ、規格への適合をひとつの目安にできます。
混同しやすい規格にも触れておきます。JIS B 7512は鋼製巻尺、つまりメジャーの規格で、さしがねとは別の規格です。製品のパッケージで規格番号を見るときは、B 7534と書かれているかどうかを確認しましょう。規格の原文は、日本産業標準調査会(JISC)のサイトで閲覧できます。
長さ±0.2mm、直角度は100mmにつき0.1mm以下という数字の意味
JIS B 7534の本文では、長さの許容差は基準の温度を20℃として±0.2mm、長枝の目盛側面の直角度は100mmにつき0.1mm以下と定められています。材料の硬さは、A形がHv320以上、B形・C形がHv210以上です。
直角度の基準が100mmあたりで決められているのは、直角のずれが長手の先へいくほど広がるからです。角の近くではわずかでも、長い線を引けばそのずれが線の端で大きくなります。長さの許容差に温度の基準があるのは、金属が温度で伸び縮みするためです。
製品を選ぶときは、JIS適合の表示があるかどうかを見ておくと、精度の目安になります。
| 種類・方式 | 長枝と短枝とが90°を構成している金属製の角度直尺(JIS B 7534:2005「金属製角度直尺」) |
| 主な仕様(JIS本文) | 呼び寸法250・300・450・500mm/長さの許容差±0.2mm(20℃基準)/長枝の目盛側面の直角度100mmにつき0.1mm以下/硬さA形Hv320以上・B形C形Hv210以上 |
| 向いている作業・材料 | 木材などへのけがき(墨付け)、長さの測定、直角の確認、勾配の墨付け |
| 使い方のコツ・注意 | 規格の原文はJISCで閲覧できる。JIS B 7512(鋼製巻尺)とは別規格 |
目的別の選び方:はじめての1本・木材を扱う人・mmの図面で作る人
選ぶ基準は、長さ、目盛りの種類、精度の表示の3つに整理できます。どれを優先するかは、作るものと作業のしかたで変わります。
はじめて1本持つ人は、長手50cm・妻手25cmの一般的なサイズを基準に考えると、棚や箱の材料の幅に1回で当てやすく、扱いやすい長さに収まります。精度の目安として、JIS適合の表示があるかも確認しておきましょう。
mmで書かれた図面や手順書で作る人は、表にメートル目盛が刻まれた製品を選ぶと、換算の手間と読み違いを減らせます。尺相当目盛との併用品を選ぶ場合は、どの面にどちらの単位があるかを製品表示で確かめておくと安心です。
丸太や丸棒を扱う機会がある人は、裏に角目・丸目が刻まれた製品が役に立ちます。逆に、製材された板や角材で作るのが中心なら、裏目の有無にこだわる必要は小さく、表目の読みやすさを優先して選ぶ方が実用的です。
スコヤとの違いと、精度を保つ扱い方
直角を確かめる道具には、スコヤもあります。さしがねは薄い金属のL字で、曲げるようにして材料に密着させながら測る・引くを兼ねる道具です。一方スコヤは、材料に押し当てて直角を見ることを中心にした道具です。どちらを使うかは作業の内容で変わるので、スコヤの仕組みと使い方は別の記事で詳しく解説しています。

棚板を切ったはずなのに、組み立てると箱がわずかに傾く。木口を突き合わせたら、角に細いすきまが見える。こうしたズレの多くは、切る前の線と、切った後の確認の段階で生…
さしがねの精度は、扱い方でも左右されます。金属のL字は、落としたり角をぶつけたりすると、腕の付け根で直角が狂うことがあります。直角が狂ったさしがねで引いた線は、どれだけ丁寧に当てても斜めになります。
直角を確かめたいときは、まっすぐな辺に妻手を当てて1本線を引き、さしがねを裏返して同じ辺から同じ位置にもう1本引いてみる方法があります。直角が正しければ2本の線は重なり、狂っていれば、ずれが裏返した分だけ大きく現れるので、わずかな狂いにも気づきやすくなります。線が開くようなら、精度が必要な墨付けには使わないようにしましょう。
まとめ:さしがねとは、直角と寸法を材料に写し取る道具
さしがねは、L字の直角と目盛りを材料に写し取ることで、測る・けがく・直角を確かめるをまとめてこなします。最初の一歩としては、手元の端材に妻手を当て、長手の真ん中を押さえたまま、鉛筆の角度を変えずに1本線を引いてみてください。引いた線を裏返したさしがねで確かめれば、当て方のくせと道具の精度が同時に分かります。
※製品の目盛り・規格表示・最新情報は、各メーカーの公式サイトでご確認ください。

コメント